差動位相シフト量子鍵配送実験

本庄 利守 井上 恭 
量子光物性研究部

 量子力学の原理に基づいて絶対安全な通信を提供する量子鍵配送の研究が進められている。 我々は、差動位相シフト量子鍵配送(DPS-QKD)と呼ばれる新しい量子鍵配送方式を提案した。この方式は、ファイバー伝送に適しているなどの特徴を有する。 本研究では、平面光導波回路を用いてDPS-QKDの実現性を実験により示した。
 図1に実験構成を示す。 光源には、外部共振器レーザーを使用した(波長1551nm) 。 レーザーからのCW光を強度変調器で繰り返し1GHz、幅125psのパルスにし、各パルスを位相変調器でランダムに0もしくはπの位相変調をした。光強度を1パルス当たり0.1光子にして、20kmのファイバー(減衰 4.46dB)を伝送させた後、Mach-Zehnder干渉計を通過させた。 干渉計の光路差は20cmであり、1Gbit/sの1ビットの遅延(1ns)に相当する。 干渉計には、PLC(planar lightwave circuit)光導波路を用いており、透過ロスは、2.64dBである。入力偏波によらず消光比0.27%から0.46%であり偏波依存性も小さい。 干渉計の出力を、5MHzでゲート電圧をかけたAPDで受信した。 光子伝送の後に、AliceはBobから通知される光子検出時刻からシフト鍵を生成する。 ここでAPDによる光子検出にはジッターがあるため、到着時刻にゆらぎが発生する。 これによるエラーを低減するために時間幅を設けて、時間幅内に到着した光子のみをシフト鍵生成に用いた。 シフト鍵生成レートの低下を伴うが、QBERを低減できることが分かる。 図2にシフト鍵生成レートとエラーレート(QBER)を示す。 時間幅0.6nsの場合にシフト鍵生成レート 3076bit/s、QBER 5.0%が得られた。 エラー訂正とプライバシー増幅を行って秘密鍵を生成するのに十分な結果が得られ、差動位相シフト量子鍵配送の実現可能性を示した。
[1] K. Inoue, E. Waks and Y. Yamamoto, Phys. Rev. A 67, (2003) 022317.
[2] T. Honjo, K. Inoue and H. Takahashi, Opt. Lett. 29, (2004) 2797.
図1 実験構成
図2 実験結果


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