低速電子線照射によるカーボンナノチューブの金属−半導体転移

鈴木哲 神崎賢一 小林慶裕 
機能物質科学研究部

 カーボンナノチューブはカイラリティ(グラファイトシートの巻き方)に依存して、金属的、あるいは半導体的な電子状態を持ち、また半導体ナノチューブのバンドギャップはチューブ径に依存して様々な値を取る。現在、ナノチューブのカイラリティや直径を制御する技術は確立されておらず、これがナノチューブのデバイス応用上大きな問題点となっている。例えば金属ナノチューブは、電界効果トランジスタ(FET)としては全く動作しない。
 最近我々は、簡便な手法により金属ナノチューブの電気特性を半導体的に変化させる方法を開発した[1]。図1に単層ナノチューブをチャンネルとしたFETの28 Kでのゲート特性を示す。このナノチューブは金属的であり、したがってゲート電圧に依存せず常にオン状態となる (a)。伝導度にスパイクが現れているのは、低温下での測定のためクーロンブロッケードが生じているためである。このデバイスに加速電圧1 kVの電子線を10-4 C/cm2程度照射することにより、電流が流れないオフ領域(矢印)がゲート特性に現れた (b)。このようなオフ領域の出現は、半導体ナノチューブに特有のものである。また更なる照射によりオフ領域を広げることができる (c)。電子線照射によるこのようなゲート特性の変化は、照射によってナノチューブのカイラリティや直径を変化させたことと電気的には同等である。また、図2に示すように、激しい照射を行うと、全てのナノチューブはほぼ絶縁体的になる[2]。このように照射量の制御により、ナノチューブの電気特性を金属的から半導体的、更に絶縁体的にまで広く制御できることが明らかとなった。これらの電気特性の変化は、照射によってナノチューブ中に生成された欠陥[3、4]の働きによるものである。


[1] A. Vijayaraghavan et al., Nano Lett. 5 (2005) 1575.
[2] S. Suzuki et al., Jpn. J. Appl. Phys. 44 (2005) L1498.
[3] S. Suzuki et al., Jpn. J. Appl. Phys. 43 (2004) L1118.
[4] S. Suzuki et al., Jpn. J. Appl. Phys. 44 (2005) L133.

図1 電子照射前後のナノチューブデバイスのゲート特性
図2 電子照射中のナノチューブデバイスの電流変化

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