フェリチン触媒を用いたカーボンナノチューブの径制御成長

Goo-Hwan Jeong 鈴木哲 小林慶裕
機能物質科学研究部

 カーボンナノチューブ(CNT)の電気的特性は幾何学的な構造(直径、らせん度)に応じて金属的にも半導体的にもなりえる。CNTを次世代電子素子へ応用するためには特定の構造を持ったCNTのみを選択的に合成する手法の開発が必須不可欠な課題となっている。そこで、我々は均一径を持つCNT成長を目指して、CVD成長の触媒として従来の薄膜ではなくサイズの揃ったナノ微粒子を用いて、CNTの構造制御成長研究を進めている[1]。
 CNTの合成触媒としては、直径6-8 nmの鉄微粒子を内包したフェリチン蛋白質、Co微粒子を内包したCo-フェリチン、および直径4 nmの鉄微粒子を内包したDps蛋白質を利用した。CNTの成長はSiO平板基板及び柱パターン上にこれらのフェリチン類を均一に分散し、熱処理(calcination)によって蛋白質殻を除去後、CVD法で成長した。
 図1はフェリチンとCo-フェリチンを触媒としてCNT成長後に観測されたAFM像の解析結果である[2]。サイズの大きな触媒から細いCNTが成長し、CNT径は成長に寄与した触媒微粒子の径が上限となっていることが分かる。またフェリチンを用いた場合には、模式図のように、Fe微粒子が基板へと沈み込む現象も透過型電子顕微鏡で確認されている。
 図2はフェリチンより小さいサイズを持つDps蛋白質を触媒とした場合のCNT成長結果である。ナノ柱状構造間を架橋したCNT[電子顕微鏡像]から強いラマンスペクトルが観測された。その解析から、成長したCNTの結晶性が高く、径は1 nm程度であることが分かる。
 図3はフェリチン類の触媒サイズとCNT径の相関関係をまとめた結果である。分散されたフェリチン類(10.2-4.0 nm)は熱処理によって蛋白質殻が除去され触媒微粒子(5.3-2.4 nm)になり、それらから細い径を持つCNT(1.6-1.1 nm)が成長する。触媒サイズが減少するにつれて、触媒サイズとCNT径の差および成長したCNT径は小さくなる傾向にあることが分かる。この結果は、より小さい触媒微粒子を均一に合成することがCNTの直径制御に結び付くことを示唆する。このように触媒サイズとCNT径とのサイズ相関を調べることは、成長中の触媒の挙動の解明[3]とともに、CNTの直径制御成長に大きく寄与すると考えられる。


[1] G. H. Jeong et al., J. Am. Chem. Soc. 127 (2005) 8238.
[2] G. H. Jeong et al., J. Appl. Phys. 98 (2005) 124311.
[3] G. H. Jeong et al., Chem. Phys. Lett. 422 (2006) 83.

図1 触媒サイズとCNT径の相関及び成長模式図
図2 Dpsから成長した架橋CNTのRaman特性と電子顕微鏡
図3 フェリチン類触媒とCNT径のサイズ関係

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