微小角入射X線回折によるシリコンナノ薄膜の歪み解析

尾身博雄 川村朋晃 
機能物質科学研究部

シリコンナノ薄膜はその膜厚を数nmまで小さくすると量子閉じ込め効果が発現することが知られており、この量子効果を使ったシリコンナノデバイスを安定に動作させるためには、まずは歪み分布のない良質なシリコンナノ薄膜を実現することが欠かせない。シリコンナノ薄膜は一般的に、シリコンで酸化ケイ素をサンドイッチしたSOI (Silicon On Insulator)基板を熱酸化し、この熱酸化膜をエッチングで除去する手法を用いて形成する。この方法では、熱酸化プロセス中のシリコンナノ薄膜と酸化ケイ素膜との膨張率の相異によって、シリコンナノ薄膜全体が歪んでしまう。その結果、シリコンナノ薄膜が薄くなればなるほど、この歪みの効果は増大することがX線回折法やラマン法などを用いて解析されてきている。しかし、この手法ではシリコンナノ薄膜の平均的な歪みしか評価できず、表面やシリコンナノ薄膜と酸化ケイ素膜の界面に存在する局所的な歪み分布を知ることは難しかった。
 我々は、通常の斜入射X線回折法(GIXD)よりも更に表面に対してすれすれの0.01°程度の角度でX線を入射し、表面の歪みのみを選択的に検出する「極微小角入射X線回折法」を新たに開発し(図1)、その手法を用いてシリコンナノ薄膜の表面近傍に存在する微小な歪みの検出に成功した。この測定は、高輝度放射光施設「SPring-8」の強力な放射光を用いることにより初めて可能となった。
 シリコンナノ薄膜の深さ方向の歪み分布はX線の入射角を変えて分析した。入射角が0.01°、0.1°の測定結果は、それぞれ表面から2nm、6nmの深さの領域の結晶構造を反映している(図2(a))。このようなX線強度パターンを、歪み状態が2層が存在する2層歪みモデルで詳細に解析したところ、シリコンナノ薄膜表面に有限サイズ歪みドメインや10-4程度の極微小歪みが存在することが明らかになった(図2(b))。更に、この手法を熱アニール処理を施した試料にも適用し、1000℃という高温アニール処理を施すことにより歪みむらのない均質なシリコンナノ薄膜が得られることも見出した。

[1] H. Omi, et al., Appl. Phys. Lett. 86 (2005) 263112.

図1 

極微小角入射X線回折

 図2 (a) Si(220) Bragg回折
 (b) 2層歪みモデル

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