室温における分子デバイスの電子物性

後藤東一郎 樫村吉晃
機能物質科学研究部

 単分子レベルで動作する分子デバイスは低消費電力と高集積化を期待される次世代の電子デバイスであり、分子の物性を反映した、様々な特性を有するデバイスの創出が期待されている。しかしながら、ほとんどのデバイスの動作温度が低温に限られているうえ、電極と分子の接合の不安定性がデバイスの物性解析を進めるうえで障害になっていた。
 今回、金に選択的に結合する官能基を両端に有する共役系分子を金ナノギャップ電極に架橋して分子デバイスを作製し、その特性を評価した。初めに長さ1.5nmの共役系低分子TPDT(ターフェニルジチオール)を架橋し、その電気特性を測定した。その結果、室温でクーロンダイヤモンド(単電子帯電効果)が観測された(図1)。この実験結果を単電子回路でシミュレーションを行った結果、デバイスの特性はデバイス作製中に形成した、電極間の金属のマルチドットを単電子島と仮定することでほぼ説明がつき、分子は電極と金属ドットをつなぐトンネル接合として働いていると思われる[1](ナノデバイス研究Gとの共同研究)。
 また、剛直な共役系高分子PPE(ポリ-p-フェニレンエチニレン)の末端をチオアセチル化したTA-PPE(長さ18nm)を合成して金ナノギャップ電極に架橋し、その電気特性を調べた。結果、TA-PPEを架橋したデバイスは室温で周期的なステップ状電流-電圧(コンダクタンス-電圧)特性を示した。この電気特性は共鳴トンネリングに基づいた第一原理分子軌道計算の結果とよく一致し(図2)、分子の非占有軌道が伝導チャネルとして開き、電極から分子へ電子がトンネリングした結果、周期的な電流-電圧特性を示すことが判明した[2]。
 本研究は、分子デバイスが室温で電子構造に反映した電子物性を示した例といえる。今後は生体分子の物性を利用したナノデバイスなどへの発展に向けて検討していく。


[1] T. Goto et al., Jpn. J. Appl. Phys. 45 (2006) 4285.
[2] W. Hu et al., Phys. Rev. Lett. 96 (2006) 027801.

 

 
図1 室温におけるTPDTのコンダクタンス等高線枠内はTPDTの構造式
 
図2 TA-PPEの構造式と、室温におけるTA-PPEのコンダクタンス-電圧特性の実験結果(実線)と計算結果(破線)

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