表面原子ステップに配置した触媒ナノ粒子を用いたナノワイヤの位置制御

日比野浩樹1 舘野功太2
1機能物質科学研究部 2量子光物性研究部

 半導体ナノワイヤは、次世代のナノスケール電子・光デバイスの構成要素として注目を集めている。ナノワイヤのデバイス応用を考えたとき、それらをサイズ、構造、位置を制御して作製することが不可欠である。これは、VLS(vapor-liquid-solid)機構に基づくナノワイヤ形成では、金属ナノ粒子触媒の制御と密接に関係している。我々は既に、触媒の中でも最も一般的なAuに関して、Si(111)表面原子ステップをテンプレートとすることにより、AuSi合金島のサイズや位置を制御できることを示している[1]。今回、ステップに配列したAuSi合金島を触媒として、直立GaPナノワイヤの一次元配列を実現したので報告する[2]。
 AuSi合金島をステップに配列するために、超高真空中で、Si(111)表面に高温(〜700℃)と低温(〜400℃)の二段階でAuを蒸着した。その際、低エネルギー電子顕微鏡で島形成をリアルタイム観察することにより、島のサイズや密度を制御した。その後、試料を大気中に取り出し、何の前処理なく、有機金属気相エピタキシ反応管へと導入した。我々は、Si(111)表面に直立GaPナノワイヤを成長する条件を探索し、(1)トリメチルガリウムとPH3の共供給、(2)異なる温度での二段階成長、(3)低PH3流量の三条件が不可欠であることを明らかにした。
 図1は、数µmにわたって直線的に自己配列した直立ナノワイヤの走査電子顕微鏡(SEM)像である。ナノワイヤの一次元配列は、原子ステップに配列したAuSi合金島がナノワイヤ成長触媒として機能したことを示している。また、SEM像から、ナノワイヤがほぼ一定の長さと径を持つことが分かる。図2は、ナノワイヤの透過原子顕微鏡(TEM)像とエネルギー分散形X線分光(EDS)像である。ワイヤの底部では、SiとGaPの格子がなめらかに接合され、界面を貫通する欠陥は見られない。このことは、SiエレクトロニクスとIII-V半導体フォトニクスの融合を考えた際、重要な特質である。
 ナノワイヤのサイズ・位置制御に向けた我々のアプローチは、トップダウン型の微細加工技術を一切含まない、純粋にボトムアップ型の自己形成手法である。自己形成は、低コスト、大面積、高品質等の潜在的メリットを有しているが、サイズや位置の制御性等に、未だ解決すべき課題が多い。本アプローチが、自己形成に基づくナノデバイス集積法の確立に大いに貢献することが期待される。

[1] H. Hibino and Y. Watanabe, Surf. Sci. 588 (2005) L233.
[2] K. Tateno, H. Hibino, H. Gotoh, and H. Nakano, Appl. Phys. Lett. 89 (2006) 033114.
 

図1 GaPナノワイヤのSEM像。表面垂直から38°傾いた方向から撮影。挿入図は真上から見た
  
図2 (a) GaPナノワイヤのTEM像。(b) ワイヤ/基板界面領域のSi-K線、Ga-L線、P-K線によるEDS像

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