ベシクルナノ配列の自己形成

Chandra S. Ramanujan1 住友弘二2 Maurits R. R. de Planque1 日比野浩樹2
鳥光慶一2 John F. Ryan1
1オックスフォード大学 2機能物質科学研究部

 タンパク質の高密度配列を自己形成するための「ボトムアップ」技術を考案した。シリコン基板上に自己形成する金ナノドット配列をテンプレートに用いることにより、ベシクルの配列を制御することに成功した。従来のリソグラフィ等の「トップダウン」技術を用いることなく、安価で高密度なナノ配列の実現を可能にし、プロテオミクスや創薬に向けた応用が期待される。
 まず、半導体表面におけるナノ構造形成制御技術を用いてテンプレートとなる金ナノドット配列を形成する。シリコン基板上では、10〜20 nmの三次元Au-Si島は、表面上の原子ステップに沿って形成される[1]。リソグラフィを用いることなく、三次元島の位置やサイズの良く制御されたナノ配列の形成が可能である。一方、ベシクルを形成する脂質分子の一部をチオール化することにより、金原子への優先的な吸着を制御することも可能となる。図1に金表面に吸着したベシクルのAFM像を示す。チオール基は表面の金原子と結合し、ベシクルを表面に固定する。このようにチオールでタグ付けしたベシクルを、金ナノドットを配列した表面に導入すると、そこに優先的に吸着する[2]。図1と同様のベシクルが、配列をなしている様子が観察されている(図2)。ナノ配列の形成と、その後のベシクルの吸着の両方が、完全に「ボトムアップ」技術によって制御されることを示した。100 nmからミクロンスケールでの、ベシクルの自己配列が可能となった。
 脂質ベシクルは、それ単体だけではなくタンパク質をはじめとする生体分子のキャリアとして、デバイス応用に向けての展開が期待されている。現状のDNAマイクロアレイ技術では、300 µlに105〜106のプローブによるスクリーニングが行われている。今回の技術により構成されるナノ配列では、10 µlの液滴が109のナノドットをカバーすることに相当し、飛躍的な感度の向上が期待される。タンパクチップ構成に向けたキー技術の一つである、ベシクルにタンパク質を取り込み再構成する技術の確立も、現在進めている。

[1] H. Hibino and Y. Watanabe, Surf. Sci. 588 (2005) L233.
[2] C. S. Ramanujan, et al., Appl. Phy. Lett. 90 (2007) 033901.

図1 金表面に吸着したベシクルのAFM像(液中タッピングモードで測定)とそのラインプロファイル
  
図2 金ナノドット配列への優先的吸着により構成されたベシクルのナノ配列

【前ページ】 【目次へもどる】 【次ページ】