神経回路とのインターフェイス実現に向けた導電性高分子電極の開発

Tobias Nyberg 島田明佳 河西奈保子 鳥光慶一
機能物質科学研究部

 大脳皮質由来の神経回路網とのインターフェイスとして用いるための導電性高分子電極(以下高分子電極という)を開発し、神経回路網に対する電気刺激とその応答に関する特性を調べた。
 高分子電極は、Poly (3,4-ethylenedioxythiophene) poly (styrenesulfonate) (PEDOT-PSS)とEthylenedioxythiophene (EDOT)の混合物を、インジウムスズ酸化物(ITO)製の平面型電極(以下ITO電極という)上で電気化学的に重合させて作られる。表面積が非常に大きい導電性高分子を用いることにより、従来の平面型電極の特性を向上させることができた[1]。
 神経回路網に対する情報伝達は、電気刺激を印加することにより行われる。そこでまず電気刺激を印加したときの高分子電極の電気的特性を調べた。図1に高分子電極およびITO電極のボード線図を示す。低中周波領域における高分子電極のインピーダンス(○)は、ITO電極のインピーダンス(□)と比較して顕著に小さくなった。中周波領域における高分子電極の位相差(実線)も、ITO電極の位相差(破線)と比較して小さくなった。また電気刺激として電圧パルスを印加したところ、出力電流の最大値は電圧パルスの大きさに比例することが分かった。
 次にウィスター系ラット胎児(胎生18日)の大脳皮質神経細胞を電極上で分散培養し、神経回路網を形成した。培養開始後5日目からITO電極および高分子電極で自発的発火活動が観察され、神経回路網が成熟するにつれ発火頻度は上昇した。高分子電極を用いた低電圧刺激の効果を、ITO電極と比較することにより評価した。すると図2に示すように、ITO電極を用いて神経回路網を刺激するよりも低い電圧で、神経回路網の電気的活動を励起できることが分かった。高分子電極はこのような低電圧刺激を一ヶ月にわたって神経組織に印加することが可能で、しかも数ヶ月以上培養を行うことができた。これらの結果は、この導電性高分子電極が神経回路網とインターフェイスを実現するために必要な生体との高い親和性を有していることを示している。

[1] T. Nyberg, et al., J. Neurosci, Methods. 160 (2007) 16.
 

図1 高分子電極とITO電極のボート線図
  
図2 刺激電圧と励起された活動電位の数の関係
 

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