金ナノロッドの自己集合によるイオンセンシング

中島 寛 古川一暁
機能物質科学研究部

 棒状の金ナノ微粒子である金ナノロッドは、局所表面プラズモン共鳴による高い吸収特性を示し、その特性は金ナノロッドのアスペクト比(ロッド長/ロッド径)や溶液中での分散・凝集状態に大きく依存する。また金ナノロッドは、生体系に対して毒性が低いため、光学特性を活かしたバイオアッセイ用ナノ材料として期待されている。
 今回、長さ40 nm、直径10 nmの金ナノロッド表面に、陽イオンを捕捉識別するクラウンエーテル分子を化学結合させた新規ナノ複合材料を合成した。この材料は、生体内での重要な情報伝達物質であるナトリウムやカリウムなどの陽イオンを、選択的かつ高感度に検出するナノイオンセンサを実現可能とする。これまで、ナノロッド表面に機能性分子を修飾した複合材料はあまり知られていない。我々は、金と化学吸着性の高いチオール基を持つクラウンエーテル分子を合成し、金ナノロッド表面に固定化することで、溶液中に均一に分散したナノ複合材料を得た[1]。
 図1に、金ナノロッド−クラウンエーテル複合体の溶液中に、ナトリウムまたはカリウムイオンを添加したときの金ナノロッドの吸収スペクトル変化を示す。15-クラウンエーテル-5分子を表面修飾剤に用いた場合、ナトリウムイオンはクラウンエーテル1分子で捕捉されるが、よりイオン半径の大きなカリウムイオンは2つの分子間で挟持される(図2)。後者では、金ナノロッドの凝集が生じ、表面プラズモン吸収特性に顕著な変化が現れる。この仕組みを利用し、陽イオンの選択的なセンシングが可能であることを示した。異なる空孔サイズのクラウンエーテルを修飾剤に用いれば、様々なイオン半径を有する陽イオンを選択的かつ定量的に検出可能である。
 金ナノロッドは、ロッドの長さを調節することで、吸収波長を紫外〜近赤外領域まで幅広く制御可能なため、ターゲット分子に応じて、望みの検出波長を自在に選択できる。今後は、金ナノロッドの表面にタンパク質や酵素などの機能性生体分子を修飾し、生体分子にとって透明で、かつ非破壊に分析できる表面プラズモン吸収帯を利用し、単一生体分子の高感度検出や生体マーカーとしての機能を追求していく。

[1] H. Nakashima, et al., Chem. Commun. (2007) 1080.

 

図1 (a) ナトリウムイオン、(b) カリウムイオン添加による金ナノロッドの吸収特性変化
  
図2 イオン識別の仕組みと金ナノロッド
凝集構造

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