高いQを有するナノ機械共振器における電子位相の変調

Imran Mahboob 山口浩司
量子電子物性研究部

 ナノ電気機械システムと呼ばれる新しいカテゴリーの微細構造素子が、昨今注目を集めている。特にナノ機械共振器はエネルギー散逸が極めて低く、磁気モーメントや電荷、電子・核スピンなどの高感度検出素子としての応用が期待されている。また、電子間相互作用や電子・フォノン間相互作用など、低次元系において電子がエネルギーを散逸する基礎的過程を解明する上でも、ナノ機械共振器は重要なツールとなる。
 ここでは、ナノ機械共振器を用いて量子細線における電子干渉を調べる手法に関して紹介する [1]。作製したナノ機械構造は、擬一次元電子系を有するInAs細線を組み込んだAlGaSb梁である [図1(a)]。この梁には加振用のAu細線も組み込んであり、横磁場中で交流電流を流すことにより梁の上下運動を引き起こす。運動により発生した誘導起電力により測定した共振特性を図1(b)に示す。共振周波数は 10.268 MHz、Q値は12,000である。
 次に、この共振周波数付近における梁の運動を、梁の曲げによるInAs細線の抵抗値変化(ピエゾ抵抗)により検出した。共振ピークはこの場合にも明瞭に確認されたが、共振周波数における抵抗値変化は、印加した磁場の関数として周期的に振動することが観測された[図1(c)]。図1(d)はそのフーリエ変換であるが、明確な周期構造が確認される。一方、InAs細線の抵抗値そのものは、コンダクタンス揺らぎと呼ばれる不規則な振動を磁場の関数として示し、電子がInAs細線内で多くの経路を通じて複雑に干渉していることが理解される。これらの結果は、梁全体にわたっての平均的な電子干渉の状態を検出する磁気抵抗測定とは異なり、ピエゾ抵抗測定では小数の干渉ループのみの影響を局所的に抽出できていることを示唆している。

[1] I. Mahboob, et al., Appl. Phys. Lett. 89 (2006) 192106.

図1  (a) 作製した素子(8 µm長・1.5 µm幅)の電子顕微鏡写真。(b) 誘導起電力により検出した機械的共振特性。(c) 共振周波数におけるInAs細線の抵抗値変化の磁場依存性。(d) 抵抗値変化の磁場依存性のフーリエ変換。測定温度は全て 20 mK

【前ページ】 【目次へもどる】 【次ページ】