電流電子のカウンティング

藤澤利正
量子電子物性研究部

 単電子カウンティング素子(口絵参照)は、1個1個の電子の流れを正確に測定できるため、様々な統計的手法によって“電流”を解析することができる。ここでは、非常に微弱な電流を測定できる単電子電流計としての応用と、電子間の相互作用に関する情報を得ることができる物性研究ツールとしての実験を紹介する[1]。
 我々は、二重量子ドットを流れる電子を近接するポイント接合電荷計によって検出する単電子カウンティング素子を作成した(口絵参照)。ある時間(実験では1.3秒)に流れる正味の電子数を数えることにより、平均的な電流値を得ることができ、下図(a)のような構成によって、単電子トランジスタから流れる電流を測定し、図(b)のクーロン振動特性(電流ピークの繰返し)を観測した。得られた電流の雑音レベルは約3アトアンペア(毎秒電子20個分に相当)と従来の高感度電流計より3〜4桁低いものであり、高感度な電流測定が可能になることが実証された。
 また、単電子カウンティング素子によって平均電流以外の様々な情報を得ることができる。図(c)は連続して順方向に流れる電子の時間間隔のヒストグラムを示したもので、ゼロ間隔で立て続けに電子が流れる頻度が少ないアンチバンチング特性を示す。これは、電子間のクーロン相互作用に起因する単一電子トンネルの特徴を顕著に表すものである。また、図(d)は一定時間間隔に流れる電子数のヒストグラムを示しており、高次の雑音特性を明らかにすることに成功した。これらの統計的な手法により、電流に現れる相関を明らかにできると期待される。

[1] T. Fujisawa, et al., Science 312 (2006) 1634.

 

図1 単電子計数実験。(a) 単電子電流計(量子ドットLとRおよびポイント接合PCより構成される)と単電子トランジスタとの接続例。(b) 測定された単一電子トンネル電流。(c) 単電子電流に現れる計数統計(アンチバンチング相関)。(d) 単位時間に流れる電子数(電流)のヒストグラム(2次の雑音Sと3次の雑音Cが計測される)

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