半導体ヘテロ構造の実空間状態密度分布解析

鈴木恭一1 蟹澤 聖1 Simon Perraud1,2 Camille Janer1,3 高品 圭1 藤澤利正1
平山祥郎1,4
1量子電子物性研究部 2CNRS 3ESPCI 4東北大学

 高度の微細化、集積化に伴い、半導体デバイスでは、内部の量子力学的効果がデバイス全体の特性を支配するようになってきている。デバイスの正確な動作の実現や極微細領域の局所的な物性探索のためにも、ナノスケールの波動関数解析が望まれる。走査トンネル顕微鏡を用いた走査トンネル分光(STS)は、波動関数解析の有力な手法の一つで、試料−探針電圧に対するトンネル電流特性を調べることで、局所状態密度(波動関数の二乗に対応)をエネルギーの関数として知ることができ、さらに、探針を走査することで、状態密度の空間分布が得られる。
 我々は、半導体ヘテロ構造劈開面についてSTS測定を行うことで(図1)、量子井戸に形成された量子化サブバンド(図2)[1]、単一ポテンシャル障壁による電子波の干渉(図3)[2]、二重量子井戸における波動関数結合(図3)[3]の観測に成功した。本手法は、ヘテロ構造一般に適用可能で、実際のデバイスにおける波動関数の実空間解析への応用が期待される。

[1] K. Suzuki, et al., Phys. Rev. Lett. 98 (2007) 136802.
[2] K. Suzuki, et al., Jpn. J. Appl. Phys. 46 (2007) 2618.
[3] K. Suzuki, et al., J. Cryst. Growth 301-302 (2007) 97.

図1 清浄表面を得るために、試料は超高真空中(<2x10-10 T orr)で劈開され、低温(4.8 K)走査トンネル顕微鏡へ搬送される
図2 InAs/GaSb量子井戸のエネルギーに対する状態密度分布(DOS)。量子化した各エネルギーサブバンドに対応するDOSの定在波が明瞭に観測される
 図3 InAs/GaSb単一ヘテロ界面付近の状態密度分布(DOS)。GaSb障壁へ入射する電子波と反射される電子波の干渉パターンが定在波として観測される

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