超伝導磁束量子ビットのデコヒーレンス

角柳孝輔 齊藤志郎 中ノ勇人 仙場浩一
量子電子物性研究部

 量子ビットで量子演算を行うためにはコヒーレンスが保たれた状態で一連の量子ゲート操作を行う必要がある。しかしながら、量子ビットは環境との相互作用があるためにそのコヒーレンスが時間とともに失われるデコヒーレンスが生じる。このデコヒーレンスの起源を明らかにすることは量子ビットのコヒーレンス時間を延ばす上でも重要な課題となっている。
 超伝導磁束量子ビット(図1)は数的拡張性に優れる固体素子量子ビットの中でも有望な量子ビットの一つである。我々はこの超伝導磁束量子ビットのデコヒーレンスについて調べるために位相緩和時間(T2)とエネルギー緩和時間(T1)の磁場依存性を測定した [1]。緩和は環境との相互作用に伴うエネルギーの揺らぎによって引き起こされるため、その磁場依存性の測定からどのような磁場揺らぎがデコヒーレンスへ寄与しているかを知ることができる。
 図2は縮退点(ΔΦqb=0)付近で測定したT1およびT2を磁束量子(Φ0)単位の磁場で表示したものである。T2の値は縮退点に近づくにつれて長くなり縮退点で 250 ns に達した。一方、T1は縮退点近傍でほぼ一様(T1 ~140 ns)である。一般にT2には純粋位相緩和()の他にT1の寄与があり の関係がある。得られたT1T2の値から縮退点でのコヒーレンス時間は主にエネルギー緩和によって抑えられていることが分かった。また純粋位相緩和の磁場依存性は 型の周波数分布を持つ磁場揺らぎによって説明できることが分かった。
 これらのことから今後エネルギー緩和を引き起こす高周波揺らぎを抑え込むことによって超伝導磁束量子ビットのコヒーレンス時間の改善が期待されるので今後行っていく予定である。

[1] K. Kakuyanagi, et al., Phys. Rev. Lett. 98 (2007) 047004.

図1 超伝導磁束量子ビットの試料写真
 図2 T1 T2の磁場依存性

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