金ナノロッド配列構造の精密制御

中島 寛
機能物質科学研究部

 棒状の金ナノ粒子である“金ナノロッド”は、粒子の構造アスペクト比に応じた局所表面プラズモン特性を示す[1]。また金ナノロッドを基板上で規則性良く集積化すると、個々の粒子のプラズモンが協同的に作用した物性が発現し、それを利用した次世代のナノ光・電子デバイス、バイオセンサなどの開発が指向されている。これらの機能を最大限に発揮するためには、金ナノロッドの集積構造を制御する“組織化技術”が重要な鍵を握る。今回、長さ40 nm、直径10 nmの金ナノロッド表面に、細胞膜の構成分子である脂質分子を修飾した新しいナノバイオ複合材料を合成した(図1)。脂質分子の高い自己組織化力を活かしたボトムアッププロセスにより、固体基板上で金ナノロッドの配列構造を形成させ、さらにその構造次元性、配向性、粒子間距離の精密制御を達成した[2]。
 脂質分子で被覆した金ナノロッド複合体の溶液を、シリコン基板上に展開すると、複合体は1次元でside-to-sideに配列化したナノ構造体を形成する[図2(a)]。金ナノロッドの配列化は、表面の脂質分子が乾燥過程で自己組織化することにより誘起される。実際、隣接する金ナノロッド同士の粒子間は約5.0 nmの一定間隔を有し、脂質分子が粒子間で二分子膜構造を形成する距離に良く一致する。また乾燥方法を工夫すると、金ナノロッド複合体は基板上で高密度に集積し、規則的に2次元に配列化した構造体を形成する。その配列方向は、親水性シリコン表面では基板に平行であるのに対し[図2(b)]、疎水性シリコン表面では垂直に配列化する[図2(c)]。基板表面の組成−溶媒−脂質分子の間で作用する化学的親和力をうまく調節して、金ナノロッドの配向制御を実証した例である。
 今回合成した金ナノロッドは、生体適合性のナノ材料である。そのため、金ナノロッド表面に膜タンパク質、酵素、抗体などの生体分子を結合し、機能させることもできる。今後、金ナノロッドがアレイ化した基板がもたらすラマンや蛍光などの分光信号の増強効果を活用し、単一分子レベルの生体反応が検出できる高感度バイオチップへの可能性を追求していく。

[1] D. P. Sprünken et al., J. Phys. Chem. C 111 (2007) 14299.
[2] H. Nakashima et al., Langmuir 24 (2008) 5654.
 

 
図1  脂質分子を修飾した金ナノロッド複合体とその自己組織化。
図2  金ナノロッド複合体の(a) 1次元、(b) 2次元平行、(c) 2次元垂直配列化構造。

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