AFMによる受容体タンパク質の脂質内局在に関する検討

河西奈保子 Chandra S. Ramanujan* Kamal Marwaha* John F. Ryan* 鳥光慶一
機能物質科学研究部 *University of Oxford

 受容体タンパク質は生体膜内に存在して生物の活動に重要な役割を果たしている。受容体タンパク質は細胞外のシグナル分子(リガンド)と結合して、電気的あるいは化学的に細胞内に情報を伝達する微小でかつ非常に重要な素子である。生体膜は主に脂質分子からなっているが、近年、脳内のシナプスにおいて生体膜を構成する脂質膜が均一ではなく、その一部が特定の脂質分子が集まりラフト様構造と呼ばれる領域を形成しており、受容体タンパク質の密度や機能に影響を及ぼしている、という報告がなされ[1]、多くの関心を集めている。
 本研究では、タンパク質一分子を観察することができる解像度を有し、溶液中での観察が可能な原子間力顕微鏡 (AFM) を用い、受容体タンパク質を再構成した際の局在について検討した。脂質は、シナプスの脂質膜を構成する脂質のうち4種類のリン脂質を異なる混合比で混合した。受容体タンパク質には神経伝達物質の受容体であるグルタミン酸受容体を用いた。グルタミン酸受容体は特に脳内で記憶や学習などを司る重要な受容体タンパク質である。
 混合脂質からなる脂質膜をベシクルフュージョン法によってマイカ基板上に作製した。図1に示すとおり、マイカ基板上に高さが約5 nmの低い脂質ドメイン (LD) と、約7 nmの高い脂質ドメイン(HD) を観察することができた。HDの直径は100 nm程度であり、シナプスにおける脂質膜のラフト様構造と構造的に類似している可能性を示す。次に透析により混合脂質にグルタミン酸受容体の再構成を行った。図2に示すようにHDへより多くのグルタミン酸受容体が再構成されることが分かった[2]。このことは、脂質の組成が局在に影響を与えていることを示しており、シナプスにおいてラフト様構造へのグルタミン酸受容体の局在を示唆するものである。シナプスにおける情報伝達機構の解明に貢献するものと期待される。
 本研究の一部は、英国Bionanotechnology IRCおよび独立行政法人科学技術振興機構戦略的国際科学技術協力推進事業の援助を受けて行われた。

[1] J.A. Allen et al., Nat. Rev. Neurosci. 8 (2007) 128.
[2] C.S. Ramanujan et al., 52nd Biophys. Soc. Meeting Abst. (2008) B363.
 

 
図1  マイカ上に形成した脂質膜の中のドメインのAFM像 (A、2.5 µm角)と高さのプロファイル(B)。
図2  受容体タンパク質を再構成した脂質ドメインのAFM像 (1 µm角)。

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