MgB2を用いた超伝導単一光子検出

柴田浩行
量子光物性研究部

 量子暗号通信は、盗聴が原理的に不可能な究極の通信であり、その実用化に向けた研 究が勢力的に推進されている。現在、量子暗号通信における通信距離・速度は単一光子検 出器の性能によって制限されており、その高性能化は急務である。最近、NbN超伝導体を用いた超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SSPD)が開発され、従来の半導体を用いた単一光子検出器より高性能であるため注目されている。この検出器は、高い時間分解能(60 ps)と低暗計数率(10 Hz)を特徴とし、これを用いると、量子鍵配送の伝送距離が従来型検出器を用いた場合の2倍(200 km)に延長可能となる[1]。今回、我々はSSPDのさらなる高性能化を目指し、MgB2超伝導体を用いた単一光子検出を試みた。MgB2は超伝導転移温度(Tc)が40 KとNbNの16 Kと比較して高く、また、電子−フォノン相互作用が強く緩和が早いため、より高温動作、高速応答可能な単一光子検出が期待できる。
 MgB2-SSPDを得るためには、高品質なMgB2極薄膜作製技術およびMgB2ナノ微細加工技術を確立することが必須となる。我々は極薄膜作製に最も適したMBE法を用いて、膜厚10 nmでTc=20 Kを示すMgB2極薄膜を得た。ナノ微細加工において、MgB2はエッチングガスが見つかっていないため、NbNで用いられているような化学的ドライエッチング法は利用できない。また、MgB2は成膜時に300ºCに加熱する必要があるため、通常のレジストを用いたリフトオフ法を用いることもできない。我々は、耐熱性のあるアモルファスシリコンとアモルファスカーボンの 2層をレジストに用いたリフトオフ法を新たに開発し、200 nm幅のMgB2ナノワイヤを得た。図1に示すように光ファイバから出射した光をMgB2素子に集光し、バイアスを加えて光応答を測定した。光強度が強い場合、図2(a)に示すように入射光パルス(100 MHz)に対応したシグナルが得られる。一方、光強度を充分に弱めるとシグナルは間欠的となり、MgB2ナノワイヤは光子検出域動作することを明らかにした[図2(b)、(c)][2]。

[1] H. Takesue et al., Nature Photon. 1 (2007) 343.
[2] H. Shibata et al., IEEE Trans. Appl. Supercond. 19 (in press).
 

図1  光ファイバ照射されたMgB2超伝導ナノワイヤ。
 
図2  光応答の入射光強度依存性。

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