ガスソースMBE法によるグラフェン成長

前田文彦 日比野浩樹
機能物質科学研究部

 グラフェンは、室温において最も高い移動度を示すなど、次世代エレクトロニクス材料の有力な候補となる高いポテンシャルが次々と示されてきている。しかし、その実用化には大規模集積化に適した大面積・高品質な薄膜形成が大きな課題となっており、ウエハサイズのグラフェン薄膜を形成する研究が精力的に進められている。そこで、新たなグラフェン形成法として分子線エピタキシャル (MBE) 法に基づく成長法を提案した。この成長法は、既存のSiCの熱分解法[1]や触媒能を持つ金属を用いた化学気相成長法[2]とは異なり、特定の基板に制約されないという特長を持つとともに、ドーピングやヘテロ成長への展開も見込まれる。今回、ホモエピタキシャル成長を試み、この成長法について原理確認を行った。[3]
 実験では、6H-SiC (0001) を超高真空中で高温に加熱することによって約3層のグラフェンを形成した基板を620ºCに加熱して、2000ºCに加熱したタングステンフィラメントを用いて解離させたアルコールを成長材料として供給し、グラフェンの成長を試みた。その結果、成長後のその場X線光電子分光 (XPS) によって、グラファイト状の物質が約4原子層堆積できたことが判った。さらに、図1に示す成長後の透過電子顕微鏡像では、6~7層の層状の構造が認められ、XPSで見積もった膜厚とほぼ等しい層数分が増加していることが判った。さらに成長前後のRaman分光法スペクトルを測定したところ、図2に示すとおり、グラフェン膜厚の増加に対応する2Dバンド形状の変化とGバンド強度の増加が認められた。一方、欠陥の存在を示すDバンドピークの著しい増大も観測された。この欠陥は、エッジの存在に起因するもので単結晶領域が小さいことを示すものと推測される。以上の結果は、結晶性改善という課題は残るものの、数原子層のグラフェンを成長できたことを示すもので、本成長法で原理的にはグラフェンの成長が可能であることを示すことができた。

[1] A. J. van Bommel, J. E. Crombeen, and A. van Tooren, Surf. Science 48 (1975) 463.
[2] L. C. Isett and J. M. Blakely, Surf. Science 58 (1976) 397.
[3] F. Maeda and H. Hibino, Phys. Status Solidi B 247 (2010) 916.
 

 
図1  MBE成長後の透過電子顕微鏡像。
図2  (a) MBE成長後と (b) 参考のため示した
3層の熱分解グラフェンのRamanスペクトル。

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