カーボンナノホーンにおけるトポロジカルラマンバンド

佐々木健一 関根佳明 舘野功太 後藤秀樹
量子光物性研究部 機能物質科学研究部

 グラフェンは炭素原子がハニカム構造を形成している二次元シートである。基本となる六角形の中には2つの炭素原子(A原子とB原子)がある。他方、ブリュアンゾーンにおいても2つの波数(K点とK’点)の近傍だけが電流などに寄与する。これらA、B原子、K、K’点の4つの自由度の関連を理解することが重要である。我々は、これらの自由度が混ざり合う効果をラマン分光の観点から探究しており、トポロジーに起因した新奇なラマン過程を見出したので報告する。
 グラフェンのエッジでは、4つの自由度が大変興味深い振舞をする。エッジ構造は対称性の観点からアームチェアとジグザグに分類され、特にアームチェアエッジでは、AB原子が等価に現れる。一方、電子がアームチェアエッジで散乱されるとKからK’に状態が変化する。この波数変化は、グラフェンエッジのラマンスペクトルから検証することができる。Dバンドと呼ばれる格子振動モードがあり、波数がKからK’に変化しないと励起されないという選択則があるため、Dバンドの有無はアームチェアエッジに直接対応する[1]。図1はエッジDバンドの励起過程を模式的に表したものである。
 5員環や7員環などの位相欠陥では、AB原子を大域的に定義することができないことを反映し、電子が位相欠陥のまわりを一周すると波数がKからK’に変化することが知られており、Dバンドの波数選択則が満たされる可能性がある。詳細に解析した結果、位相欠陥近傍に光励起されたキャリアの経路に関する巻き数(winding number)に依存した新奇なDバンドが存在することがわかった。このDバンドの励起メカニズムにはトポロジーが関わっており、エッジDバンドと区別するためにトポロジカルDバンドと命名した[2]。図2はトポロジカルDバンドの励起過程を模式的に表したもので、エッジが無い(電子の非弾性散乱はない)にも関わらず、欠陥の回りをキャリアがまわるだけで、Dバンドが生じるのが興味深い。トポロジカルDは、エッジDとフォノンの波数が異なり、ラマンシフトや光励起波長依存性などにより、区別可能である。

[1]
K. Sasaki, Y. Tokura, and T. Sogawa, Crystals 3 (2013) 120.
[2]
K. Sasaki, Y. Sekine, K. Tateno, and H. Gotoh, Phys. Rev. Lett. 111 (2013) 116801.
図1
 アームチェアエッジにおけるDラマンバンドの励起過程:●(○)は電子(ホール)を表す。
図2
 5員環におけるトポロジカルDバンドの励起過程。