ダブルオプティカルゲート法を用いた炭素K吸収端(284 eV)領域の単一アト秒パルス発生

増子拓紀 山口量彦 小栗克弥 後藤秀樹
量子光物性研究部

 炭素を構成元素として含むグラフェン・ナノチューブ等の無機化合物や、生体分子等の有機化合物は、炭素のK殻と呼ばれる電子の吸収【光子エネルギー:284 eV(波長:4.4 nm)】を通して、それらの性質を解明することができる。我々が研究を行っているアト秒(10–18秒:as)パルスレーザは、世界で最も短いストロボ光源である。応用例として、生体分子が光照射により死滅する時間よりもパルス幅が短いため、生体分子を生きたまま観測できる期待がある。このパルス発生には、1.4×1015 W/cm2以上の高強度基本波レーザが要求されるため[1]、その強度以下からのパルス発生を避けることが、重要な要素技術となる。我々は、楕円偏光場と二波長合成場を組み合わせたダブルオプティカルゲート(DOG)法を用いて時間制御を施し、アト秒パルス成分を選択的に取り出すことに成功した[2]。
 基本波レーザ(エネルギー:247 µJ、中心波長:780 nm、パルス幅:7 fs)に、DOG法を用いて1.3 fsの時間ゲートを施した。その後、基本波はヘリウムガスを充填したガスセル(圧力:1.2 bar、相互作用長:300 µm)に集光され、発生したアト秒パルスのスペクトルは、軟X線分光器(284 eV領域において分解能: 3.8 eV)により観測された。図1は、(a)炭素300 nmフィルタ透過後、(b)炭素300 nmとホウ素130 nmフィルタ透過後のスペクトル分布を示す。炭素とホウ素K殻の吸収端が明確に観測され、これは世界最小の基本波レーザエネルギー(247 µJ)からの284 eVパルス発生の成功を意味している。また、DOG法はアト秒パルスを時間的に切り出し単一化する効果も兼ねており、超白色スペクトル発生(光子エネルギー帯域: 140 eV以上)が可能である。そのスペクトル帯域から、パルス幅は20アト秒にも到達すると見積もられ(図2)、世界最短記録である80アト秒パルス[3]よりも圧倒的に短い。1原子時間単位(24アト秒)を超える極限の超高速パルスは、炭素K殻電子の励起・緩和・相関現象を明らかにし、多種の応用に適用するために重要な光源である。

[1]
Z. Chang et al., Phys. Rev. Lett. 79 (1997) 2967.
[2]
H. Mashiko et al., Appl. Phys. Lett. 102 (2013) 171111.
[3]
E. Goulielmakis et al., Science 320 (2008) 1614.
図1
 アト秒パルスのスペクトル分布。(a)炭素フィルタ透過後、(b)炭素とホウ素フィルタ透過後。
図2
 フーリエ変換限界パルス幅。