フランツ・ケルディッシュ効果による導波路結合GeフォトダイオードのLバンド感度向上

武田浩太郎 開 達郎 土澤 泰 西 英隆 高磊 福田 浩1 山本 剛1
石川靖彦2 和田一実2 山田浩治
NTTナノフォトニクスセンタ 1NTTマイクロシステムインテグレーション研究所 2東京大学

 ゲルマニウム(Ge)を用いたフォトダイオード(Ge-PD)は、Geの吸収限界波長が1580 nm程度であることから、Lバンド(1565 nm – 1625 nm)の長波長側においては感度が低下することが報告されている[1]。そのため当該波長での感度上昇がLバンド通信へのGe-PDの適用へは不可欠である。感度上昇の手段の1つにフランツ・ケルディッシュ(FK)効果が挙げられる。FK効果は高電界印加によって光吸収係数が変化する現象であり、Geにおいても波長1580 nm付近での光吸収係数の上昇が報告されている[2]。さらにアバランシェ効果も感度上昇に有効であるとされる。アバランシェ効果は高電界印加で起こる電子雪崩による感度増幅であり、波長とは独立した現象であるため増幅率は波長に依存しない。本研究では上記2つの効果を利用してLバンドにおけるGe-PDの感度を上昇させること、またその現象を解析することを目的とした。
 本研究では導波路結合型Ge-PDを用いて高バイアス駆動条件下で、Lバンドでの感度を測定した。Geメサは幅10 µm、厚さ1 µm、長さ50 µmで数10 nmのSi層で覆われている。電圧は15 Vまで印可し、暗電流は2 V印可時で117 nA、15 V印可時で111 µAにまで達 した。光電流から暗電流を引き、入力光パワーで割って算出した各電圧におけるGe-PDの感度-波長特性を図1に示す。Ge-PD はLバンド全帯域において感度1.14 A/W以上を示した。また電圧11 V前後で感度が急激に増大し、雪崩増幅を起こしていることが確認できた。アバランシェ効果の影響を取り除くため、増幅率Mavで規格化した各電圧における感度-波長特性を図2に示す。感度は電圧印可によって長波長になるほど増加した。また、図2中の実線が示す通りこの挙動は、FK効果による感度変化の計算結果と一致した。すなわちGe-PD は15 V印可時にFKおよびアバランシェ効果によって感度を上昇させたことが明らかになった。さらに図3 (a)に示すようにバイアス電圧と波長1640 nmでの最少受光感度をプロットするとFK効果は最少受光感度の向上に寄与するが、アバランシェ効果は高い暗電流のため、感度が上昇しても最少受光感度の向上に寄与しないことがわかった。しかし、図3 (b)に示すように暗電流を1/50まで抑えるとアバランシェ効果による寄与が見えるため、暗電流を抑制すればアバランシェ効果によっても最少受光感度が向上することが明らかになった。
 以上は高電界下、LバンドでのGe-PDの感度上昇の由来を明らかにした世界初の成果であり、本成果によってGe-PDのLバンド通信適用への端緒を開くことができた。

[1]
C. T. DeRose, et al., Opt. Express 19 (2011) 24897.
[2]
T. Y. Liow, et al., in Proc. OFC, no OM3K. 2 (2013).
図1
 各電圧におけるGe-PDの感度-波長特性。
図2
 増幅率Mavで規格化した各電圧における感度-波長特性。
図3
 バイアス電圧に対する波長1640 nmでの最少受光感度。