導電性高分子と繊維の複合素材による心拍・心電図の長期計測用
ウエアラブル電極

塚田信吾 中島寛 河西奈保子 鳥光慶一 住友弘二
機能物質科学研究部

 近年の高齢化社会において、異常の早期発見・早期治療による心臓発作等の突然死リスクを軽減する目的で、心拍や心電図の常時モニタリング実現への関心が高まっている。また、不適切な運動による過剰な負担やストレスによる体調悪化等を防ぐため、心拍・心電図のモニタリングを通じて体や心の状態を把握することは有効と考えられている。しかし、従来の医療用電極は、電解質ペーストを使用し肌に粘着させて心拍・心電図を側定するため装着感が悪く日常生活における連続使用に不向きであった。
 我々は生体電極の素材としてシルクや合成繊維の表面に導電性高分子のPEDOT-PSSをコーティングした導電性の繊維を作成した[1]。本素材は柔軟性・親水性・強度に優れ、直接肌に接触させても炎症や不快感等が生じにくく肌になじみやすい特徴がある。本素材を用いて心拍・心電図測定用のシャツ型のウエアラブル電極(図1)を作成し、健常者10名を被験者として装着試験および安全性確認試験を行った。その結果、接触性皮膚炎等の発生はなく、24時間以上の連続使用に対して安定な心拍や心電図の長時間計測に成功した。また本電極は皮膚との接触が安定に保たれる条件において、電解質ペーストを使用することなく従来の医療用生体電極とほぼ変わらない安定した信号の計測が可能であることがわかった(図2)[2]。
 本電極は電解質ペーストを必要としない特徴と、柔軟で肌触りが良く通気性のある布であることから、装着者に負担をかけずに長期間の生体信号の計測が可能である。また着衣のみで手軽に心拍・心電図のモニタリングが可能であることから、基礎研究や将来の医療分野への応用だけでなく、スポーツ・健康増進等の様々なシーンへの活用が期待される。

[1] S.Tsukada, H.Nakashima and K.Torimitsu, PLoS ONE 7(4) (2012) e33689.
[2] 2013年2月12日報道発表「着衣だけで心拍・心電図の常時モニタリングを可能にする素材を作製」。
 

 
図1  心拍・心電図測定用ウエアラブル電極(右表 左裏側)灰色のパッチがPEDOT-PSSの生体電極。
図2  ホルター心電図計測の結果。24時間のデータから10分間分を抜粋表示。

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