エッジマグネトプラズモンの寿命問題の解決

佐々木健一1 村上修一2 都倉康弘3,4
1機能物質科学研究部 2東京工業大学 3量子光物性研究部 
4筑波大学

 二次元電子系を磁場中におくと、そのエッジ(境界)にエネルギーギャップのないエッジマグネトプラズモン(EMP)が現れる。これは、エッジに沿って一方向に伝搬する、電子と電磁場が結合した励起状態である。80年代から研究されている古いテーマであるが、近年グラフェンなどの新奇な二次元電子系の登場により、そこでの振る舞いが改めて注目されている[1]。本研究では既存の理論をさらに発展させる新しいアイデアを提案した。
 EMPの理論は、Volkovらにより大きく発展した[2]。この理論では、EMPの局在長や伝搬速度などの物理量が寿命の関数として求まるが、肝心の寿命が決まらないという問題があった。我々は、この問題が動的磁場の成分が無視されていたことに由来することを示し、その効果を取り入れて解析を行うことで初めて寿命を決定し、実験[1]と誤差範囲での一致(図1)をみたので報告した[3]。
 問題を解決する際に、従来の手法を適用することは困難であった。動的磁場を含めると解くべき方程式が数学者にすら解法が知られていないものとなってしまうためである。そこで我々は、問題を複雑にしているエッジを取り除いた仮想的な周期系を考察し、そこに奇妙なプラズモンの状態があることを見いだし利用した。この状態は振動数が純虚数の、緩和するだけの状態であり、その寿命は正確に計算できた。周期的な系にエッジの存在を摂動的に加えると、振動数に実部が生じ、EMPを再現するので、過減衰する奇妙な状態は、EMPの対応物である。興味深いことに、寿命に関するエッジの補正は無視できた。本研究は、従来見過ごされてきたEMPの磁気的側面についての知見を得ることができるだけでなく、奇妙な状態の存在を用いた新しい物性予測を可能にする点でも重要である。

図1 EMPの寿命の実験結果(Edge MP exp.)は理論結果(Edge MP theory)と一致する。EMPの寿命は電子寿命(Bulk MP exp.)よりも強磁場で長く(スペクトル幅が細く)なる。大まかな傾向を点線で示した。