通信波長帯光学利得材料の開発:Er-Scシリケイト

Adel Najar1 尾身博雄1,3 俵 毅彦2,3
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機能物質科学研究部 2量子光物性研究部 3NTTナノフォトニクスセンタ

 光インターコネクションの実現には高効率で信頼性の高いデバイス、たとえば光源、変調器、増幅器、スイッチ、検出器などが必要となる。特に、Si基板上でオンチップ光源を実現するためにはSi系の光学利得結晶材料の開発が不可欠である。
 私たちは、通信波長帯の波長1.5 µmで発光するEr3+イオンを添加させる母結晶として一般によく知られている従来型のYシリケイト結晶に替えて、Er3+イオンからの特異な光学特性が期待できる新しい母結晶としてScシリケイト結晶に注目し、ナノスケールの積層成長技術と高温熱処理を組み合わせることにより、SiO2/Si基板上にEr-Scシリケイト膜を形成することに挑戦した(図1左)。
 成長したEr-Scシリケイト膜のフォトルミネッセンス(PL)測定から、①900から1100oCの熱処理で発光波長が1528 nmのErxSc2-xSiO5膜が形成されること、②それ以上の熱処理温度で発光波長が 1537 nmのErxSc2-xSi2O7膜が形成されること、③ErxSc2-xSi2O7膜のPL強度はErxSc2-xSiO5膜のものよりも約5倍強いこと、④PL励起(PLE)とPL測定(図1中と右)からErxSc2-xSi2O7膜でのEr3+イオンのエネルギーレベルが決定できること、⑤ErxSc2-xSi2O7膜からのPLスペクトルピークの半値幅は温度の上昇に伴い1.1から2.3 nmへ変化することがわかった。
 なお、このEr3+イオンのPLピークの狭線幅の起因は、Scシリケイト結晶のSc3+イオンは小さなイオン半径(0.745 Å)をもつため、そのSc格子サイトをEr3+イオンが置換した場合にはEr3+イオンはその周りにあるSc3+イオンからの強い結晶場の影響を受け、Er3+イオンのエネルギーレベルが明瞭に分裂したためと考えることができる。今後は、ErxSc2-xSi2O7膜の導波路型光増幅器構造を作製し、高効率な光学利得結晶としての可能性を探索していく予定である。

図1 (左)作製した試料の膜構造。(中)1250℃の熱処理で作製した試料からのPL励起のカラーマップ。(右)4Kで測定したPL励起とPLスペクトル。