As-grown Pr2CuO4超伝導薄膜の合成

Yoshiharu Krockenberger1 堀尾眞史1,2 池田 愛1 入江 宏3 藤森 淳2 山本秀樹1
1機能物質科学研究部  2東京大学  3量子電子物性研究部

 電子ドープ銅酸化物高温超伝導体の母物質Pr2CuO4(PCO)は、モット絶縁体で電子ドーピングをすることで超伝導が発現すると考えられてきた。一方で、電子ドープ銅酸化物は、酸素が銅の周りに平面四配位したCuO2面の銅の上下頂点位置に不純物酸素を取り込みやすく、それによって超伝導特性が著しく劣化することが知られている。したがって、電子ドープ銅酸化物の超伝導発現には、不純物酸素を取り除くためのアニールが必須である。これまで、我々は精密アニールにより、ノンドープの母物質でさえ超伝導が発現することを報告してきた[1]。一方で、ex situでの複雑なアニールプロセスを必要とするため、物性測定には不向きである。そこで、アニールを必要とせずに母物質の超伝導が得られる成長条件の検討を行った。
 本研究では、分子線エピタキシ法により格子不整合が無視できる(110)GdScO3基板上にPCO薄膜をコヒーレントに成長した。このようなコヒーレント成長では、成長温度の高温化が可能なため、実効的に成長中の酸化力を緩和することが可能となる。我々は、成長温度、酸化条件、ならびに基板を系統的に変え最適な組み合わせを検討した。その結果を図1に示す。赤丸で示す条件、つまり(110)GdScO3基板上に高温でコヒーレント成長したPCO薄膜のみがas-grown状態で超伝導を示した。図2には、そのPCO薄膜の抵抗率の温度依存性を示す。高温域では抵抗率は温度とともに減少する金属的なふるまいを示し、27 Kで超伝導転移が観測された。さらに、CuO2面に対し垂直に磁場を印加した場合のCuO2面内の抵抗率の温度依存性も併せて示している [2]。本研究では、成長条件を最適化することで、PCO薄膜をin situで超伝導化できることを示した。これにより、電子ドープ系銅酸化物の物性測定において、これまでボトルネックとなっていた表面のコンタミネーションを避けることができるため、角度高分解光電子分光などの電子状態の測定において非常に有効である。

図1 種々の基板上に成長したPCO薄膜の成長条件。 図2 As-grown PCO薄膜の抵抗率の温度依存性。