不安定系との結合による量子ビットのコヒーレンス時間の改善

松崎雄一郎1 Xiaobo Zhu1,* 角柳孝輔1 樋田 啓1 下岡孝明2
水落憲和2 根本香絵3 仙場浩一4  William J. Munro5 山口浩司1 齊藤志郎1
1量子電子物性研究部 2大阪大学 
3国立情報学研究所 4情報通信研究機構 5量子光物性研究部

 ダイヤモンドの単一の窒素空孔(NV)中心は、量子メモリや高感度センサなどの応用が期待されているが[1]、磁場ノイズによりコヒーレンス時間が短くなることが知られている。
 我々は、よりコヒーレンス時間の短い超伝導磁束量子ビットと結合させることで、NV中心のコヒーレンス時間を一桁近く改善できるという現象を理論的に見出した[2]。NV中心の励起状態は、磁束量子ビットと結合が可能なブライト状態と、そのような結合ができないダーク状態の2つがエネルギー的に縮退している。そのため、NV中心単独では、低周波の磁場ノイズにより励起状態間のランダムな遷移が起きてしまい、コヒーレンス時間が短くなる。しかし磁束量子ビットと結合すると、この2つの励起状態の縮退が解ける。その結果、エネルギーギャップのために、低周波の磁場ノイズによる励起状態間の遷移が抑制されて、ダーク状態のコヒーレンス時間が改善される。具体的には、100 µsのコヒーレンス時間を持つNV中心に、10 µsのコヒーレンス時間を持つ超伝導磁束量子ビットを、 10 kHz程度の強度で結合させることで、ダーク状態のコヒーレンス時間は950 µsとなる(図1)。この成果は、NV中心を用いた量子情報実現への全く新しいアプローチを与えるものである。

図1 NV中心のデコヒーレンスを数値計算により解析した。横軸は時間を、縦軸は量子状態のコヒーレンスを示している。超伝導磁束量子ビットと結合することで、NV中心のコヒーレンス時間が一桁程度改善される。