超伝導フラックス量子ビットにおける量子ゼノン効果の観測

角柳孝輔1 馬場達也1,2 松崎雄一郎1 中ノ勇人1 齊藤志郎1 仙場浩一1,3
1量子電子物性研究部 2東京理科大 3情報通信研究機構

 量子系を理想的に測定すると、その状態は確率的にエネルギー固有状態に射影される。状態が固有状態に近いほど、測定によってその固有状態に射影される確率は高くなる。そのため、固有状態からわずかに時間発展した状態を測定すると、ほとんど1の確率で元の状態に射影される。これは、量子系においては頻繁に測定することで時間発展を凍結できることを意味しており、その状態の保持時間は測定頻度に依存する。この現象はゼノンのパラドックスのアナロジーから量子ゼノン効果と呼ばれており、物理現象として興味深いだけでなく量子測定系の評価やデコヒーレンスに強いサブスペースの実現などへの応用が期待されている。
 超伝導フラックス量子ビットは複数のジョセフソン接合を含む超伝導ループで構成されており、特定のバイアス磁場下で数GHz程度のエネルギー差をもつ量子二準位系と見なすことができる。我々はこの量子ビットに共鳴マイクロ波を照射しラビ振動を起こしながら、繰り返し測定パルスを照射することでラビ振動を止めることを試みた。量子ビットの測定には量子非破壊測定が可能なジョセフソン分岐読み出しを用いた。
 図1(a)に読み出しパルスの強度を変えて、射影が起きた場合と起きなかった場合での量子ビットの測定確率をプロットした。射影が起きない場合には励起状態と基底状態の間のラビ振動による時間発展が見られるが、射影が起きた場合にはラビ振動は凍結され励起状態を保つ様子が観測された。 図1(b)に、測定の繰り返し時間を変えた場合の結果をプロットした。測定の繰り返し時間が短いほど状態の保持時間が長いことがわかる。この結果は量子ゼノン効果のモデルでよく説明できる。このようにして我々は世界で初めて、超伝導量子ビットへの繰り返し射影測定による量子ゼノン効果を実証した[1]。

図1 (a)射影パルスの有無と量子ビットの時間発展。(b)繰り返し時間を変えた際の保持時間の変化。