光円錐におけるエンタングルメントの類似構造

森越文明
量子光物性研究部

 相対論的時空においては光円錐の概念が本質的となり、いかなるものも光より速く動くことはできないため、その軌跡は光円錐内に留まることになる。本研究では、古典的な相対論的時空における光円錐の構造に、量子論におけるエンタングルメントと類似の構造があることを見出した。(以下、光速を1とする単位系を用いる。)
 光円錐には、図1に示すように未来錐と過去錐が存在するが、時刻 t=±1 における断面は、それぞれ三次元空間における単位球となる。(図1は空間二次元のため、断面は二次元空間の単位円となっている。)それぞれの単位球を、量子情報理論でキュービットを表す際に用いるブロッホ球と同一視すると、未来と過去に一つずつ仮想のキュービットが対応することになる。等速で運動する粒子の世界線を考えると、粒子の四次元時空における運動方向はブロッホ球面もしくは球内の点で表される。つまり、光速で動く粒子の運動方向は球面上(円上)の点に対応し、光より遅い粒子の運動は球内(円内)の点で表される。
 この対応を、粒子の世界線と、2キュービット間のエンタングルした状態との対応と見ることができ、それによると、光速の粒子には分離可能状態が、静止粒子には最大にエンタングルした状態が、そして光より遅い粒子には部分的にエンタングルした状態が対応する。さらに、そのエンタングルメントをコンカレンスと呼ばれる量で測ると、コンカレンス E と粒子の速度 v の間に、

という関係が成り立つ[1]。これにより、相対論において動いている時計の遅れなどを表す因子 を、量子情報理論におけるエンタングルメントの概念を用いて理解する道が拓かれたことになる。

図1 光円錐における世界線とエンタングルメントの対応(空間二次元の場合)。