ナノワットレベルで動作する波長サイズ全光ナノ共振器メモリ

倉持栄一1,2 野崎謙悟1,2 新家昭彦1,2 谷山秀昭1,2 武田浩司1,3 佐藤具就1 松尾慎治1,3
納富雅也1,2
1NTTナノフォトニクスセンタ 2量子光物性研究部 3NTT先端集積デバイス研究所

 ナノフォトニクスセンタでは超低消費電力大規模集積ナノフォトニクスチップの開発を進めている。キーデバイスである光メモリは一定のビット容量を必要とするため特に低消費電力化する必要がある。我々は波長サイズのフォトニック結晶(Photonic Crystal, PhC)に埋込ヘテロ(Buried Heterostructure, BH)を組み合わせることでわずか30 nW (30×10-9 W)の低動作パワーを達成済みである[1]。今回よりコンパクトなL3共振器とBHを組み合わせ多穴変調により高Q値化したナノ共振器光メモリ[2] [図1(a)]を用い2ポートフィルタ素子[図1(b)]を構成することでさらに一桁の動作パワー低減を達成した[3]。本共振器はBH有り/無しの場合においてそれぞれ最高4.5万/21万の共振器Q値を示し、後者はInP系ナノ共振器における最高値であった。Q値4.2万および1.3万を示す多穴変調BH-L3共振器(L3M1, L3M3)において図1(c)に示す双安定全光メモリ動作を行い、既報のBH共振器メモリ(MG1)[1]の動作と比較した[図1(d)]。MG1と同等のQ値を有するL3M3では共振器モード体積(V)の減少に応じ、メモリ動作パワーが10 nWまで低減された。Q値が高いL3M1では従来比1/13となる2.3 nWのしきい動作パワーで図1(e)に示す良好な"1"/"0"スイッチングコントラストで全光メモリ動作が確認された。同しきい値に相当する共振器内平均光子数はわずか0.1である。本研究は超低消費電力PhC集積回路にむけた着実な前進であり、基礎研究およびデバイス応用における多穴変調で高Q値化したL型共振器の有用性を示したものである。

図1 (a)多穴変調BH-L3設計[格子定数(a): 426 nm、穴A-Dのシフト量0.09a、0.35a、0.175a、0.045a、BHはInGaAsP]。(b)BH-L3光メモリの電子顕微鏡像。(c)双安定メモリ動作説明図。(d)光メモリ動作バイアスパワーとdetuning量δの関係。(e)L3M1における動作パワー2.3 nWにおける光メモリ動作波形。