超小型の半導体光共振器では、非常に低パワーの光入力に対して非線形屈折率変化が現れるため、光スイッチや光メモリといった機能的なナノフォトニクス素子として利用できる。我々は、InPフォトニック結晶(PhC)導波路中に微小なInGaAsP層を局所的に埋め込んだナノ構造[図1(a)]を利用して,光とキャリアを強く閉じ込める光ナノ共振器を作製した。これにより、nWレベルの低パワー光入力でもキャリア非線形効果による光双安定現象が現れ[図1(b)]、光パルスの入射によってオン/オフの2状態を切り替えるメモリ素子として動作する。本研究ではさらに、これを光パケットのスイッチ素子としても利用できることを実証した[1]。
双安定状態を切り替えるための書き込み光パルス(100 ps幅, 13 fJ)、バイアス光(0.8 µW)、リセットパルス(50 ns幅)に加えて、光パケットデータ(10 Gbit/s, 1 ns長, NRZ信号)を素子に入力した
[図1(c)]。その結果、バイアス光出力により双安定状態の切り替えが確認できるとともに、これに対応して、光パケットデータのゲート動作が実現されていることがわかる[図1(d)]。さらに、1×2ポート出力型の構成も可能であり[図2(a)]、上記と同様に光双安定状態を切り替えることで光パケットデータの出力ポートをスイッチングする動作も実現した[図2(b)]。このように低パワー動作可能な全光パケットスイッチは、光-電気信号変換が不要な高速光ルーティングチップの実現に向けて有望な素子と考えられる。
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図1 (a)フォトニック結晶ナノ共振器。(b)光入出力特性における双安定ヒステリシス。(c)光入力波形。(d)光パケットのゲートスイッチ動作における光出力波形。 | 図2 (a)1×2光出力型のナノ共振器構成。(b)ポート切替スイッチ動作における光出力波形。 |