プラズモンの研究成果を紹介します。gifアニメーションがあります。ブラウザによっては画像を右クリックして「アニメーションを再生」を押して下さい。


表面プラズモンの伝搬速度

Surface Plasmon

左のアニメーションはグラフェンを伝わるプラズモンの伝播の様子を示すシミュレーション結果です。 プラズモンの伝播波形を、例えば(X,Y)=(25,22)の場所で時間の関数として測定することにより、プラズモンの伝播速度が分かります。 伝播速度はグラフェンの電子濃度に依存します。電子濃度がゼロになるグラフェンの、いわゆるディラック点に近づくと 伝播効果よりも拡散効果が支配的になり波は消えていきます。 この伝播と拡散の競合は「電信方程式」で記述できます。 NTTと深い結びつきがあるのでしょうか。詳細は 論文[pdf]をどうぞ。


エッジマグネトプラズモンの寿命問題

Plasmon Lifetime

グラフェン平面に垂直に外部磁場を加えてもプラズモンは存在しますが、 無磁場の時と性格が大きく変わるのでマグネトプラズモン(Magnetoplasmon略してMP)と名前も変わります。 マグネトプラズモンは兄弟です。兄(Bulk)は外交的な性格で平面のいろいろな場所に伝播していきます。 一方、弟(Edge)は控えめな性格で平面の端だけに居ます。ですが、決して伝播しないわけではなく、エッジにそってはむしろ外交的です。 ただ、伝播の方向が磁場の向きに依存して一方向に制限されているため、距離としては近くの場所でも、磁場の向きがよろしくないと、反対の方向に走り出してしまい、 かえって遠回りしてしまいます。しかし、時間はかかりますが、弟は長生きするので到達できます。 左の図は兄弟の寿命の逆数(縦軸)を磁場の関数(横軸)として表したものです。赤色が実験結果です。 兄よりも弟が長生きすることが分かります。 ある方法を用いて兄弟の寿命の関係式を導きました。兄の寿命をインプットとして、弟の寿命を計算した結果が青です。 関係式はうまく働いているようです。 兄または弟の寿命を計算で求めたいところですが、計算している私にも寿命(と能力限界)があるのが悩ましいところです。 興味のある方は解説[pdf]論文をどうぞ。


エッジマグネトプラズモン結晶

Plasmon Lifetime

二次元平面を微細加工で裁断し、その試料に外部磁場を加えるとマグネトプラズモンはどうなるか? この疑問は橋坂さん(現:東大物性研)に教えてもらった、とても面白い問題です。 裁断で生じた各ドメインには、MP兄弟がいるはずですが、兄は(弟より短命のため)先立ってしまい、弟だけがいるとします。 また、ドメイン間には「相関」があり、あるドメインで励起された弟はドメインを伝わっていくとします。 一つのドメインを"原子"と見なせば、裁断された二次元平面は"原子"が弟達で結合した"結晶"と考えられます。 この系を、エッジマグネトプラズモン結晶と定義します。 そこで、疑問に答える誘導問題の一つは、("原子"構造まで見ない分解能で) エッジマグネトプラズモン結晶にも(いわばマクロスコピックな)兄弟は存在するか?というものです。 誘導問題の設定のつもりが、少々入り組んだ複雑な問題に聞こえてしまいそうですが...答えはイエスです。 図の左下が兄、右下が弟の伝播を表しています。興味深いことに弟は二人になっていて、もう一人の弟とは逆方向に伝播します(下図の真中)。 全く不思議です。そもそも兄は(計算過程では)居なかったのに...弟達から作られたのでしょうか?逆向きにすすむ弟を産んだのは誰? 興味のある方はこの解説記事論文[1] および論文[2]をどうぞ。


プラズモン量子(そのうちアップデート)

2025年は量子力学の誕生から100年とされ、ユネスコは「国際量子科学技術年」に定めているそうです。 固体物理学では、プラズモンは通常「古典的な電磁場+量子的な電子」という枠組みで捉えられます。 電磁場も量子的に考えるとき、理論の枠組みは量子電磁気学(quantum electrodynamics: QED)となり、 これは量子光学と固体物理学の交点となります。 QEDは確立した揺るぎない理論だと考えられています。果たしてプラズモンのQEDは新しい展開を見せるのでしょうか。