研究
01 物質科学・量子物理

精密なエピタキシャル成長を通じて、新しい材料と量子現象を発見します。
詳細 : 物質科学・量子物理02 AI for Science・AI駆動ラボ

物理知識を取り入れたベイズ最適化と解釈可能な自律実験、LLMの協同によるAI駆動ラボにより、新たな発見を加速します。
詳細 : AI for ScienceとAI駆動ラボ01 物質科学・量子物理
[磁性絶縁体]
絶縁体・酸化物で世界最高のキュリー温度
Sr₃OsO₆の発見により、80年以上更新されなかった絶縁体・酸化物のキュリー温度の記録を塗り替えました。
陽イオンが高い規則性で配列したダブルペロブスカイト型絶縁体Sr₃OsO₆を合成・発見しました。約1060 Kの強磁性転移温度(キュリー温度)は絶縁体・酸化物で報告された最高値であり、長年の記録を100 K以上更新しました。
透過型電子顕微鏡観察でSrとOsの規則的な副格子を確認し、電子状態計算でスピン軌道相互作用を伴う絶縁状態を明らかにしました。3d遷移金属元素を含まない5d酸化物で、高温強磁性を実現する道を開く発見です。

[磁性ワイル半金属]
AI for Scienceによる磁性体中のワイル粒子の量子輸送の初観測
AI for Scienceが物性物理学の新発見を可能にしたマイルストーンです。エピタキシャル薄膜成長にベイズ最適化を導入し、磁性体中のワイル粒子の量子輸送を世界で初めて実験的に観測しました。
分子線エピタキシー(MBE)にベイズ最適化を世界に先駆けて導入し、超高品質な強磁性SrRuO₃薄膜を実現しました。これにより、磁性体中でワイル粒子の量子輸送と量子振動の観測に成功しました。ワイルフェルミオンの量子移動度は1.1 × 10⁴ cm² V⁻¹ s⁻¹に達します。
飽和しない線形の正の磁気抵抗、カイラル異常に起因する負の磁気抵抗、量子振動におけるπ位相シフト、小さなサイクロトロン質量、高い量子移動度という5つの輸送特性を観測しました。これらの結果と第一原理電子状態計算を組み合わせることで、SrRuO₃が磁性ワイル半金属であることを実証しました。
AIを活用した結晶成長が、それまで観測できなかった量子現象への道を開きました。この成果は、AI for Scienceが物性物理学の新発見につながることを示しています。現在は、超高品質SrRuO₃薄膜を研究基盤として、表面フェルミアークの輸送、ひずみによる磁性制御、単原子層ペロブスカイトSrRuO₃における強磁性へと研究を広げています。

主要論文
- Quantum transport evidence of Weyl fermions in an epitaxial ferromagnetic oxide
- Correlated Ligand Electrons in the Transition-Metal Oxide SrRuO₃
- Single-layer spin-orbit-torque magnetization switching due to spin Berry curvature generated by minute spontaneous atomic displacement in a Weyl oxide
- High-mobility two-dimensional carriers from surface Fermi arcs in magnetic Weyl semimetal films
[超ワイドバンドギャップ半導体]
スパッタリングによる単結晶β-Ga₂O₃薄膜の成長を世界で初めて実現
スパッタリングによる単結晶β-Ga₂O₃成長を実現し、超ワイドバンドギャップ半導体の成長技術に新たな道を開きました。
スパッタリングによる単結晶β-Ga₂O₃のホモエピタキシャル成長を世界で初めて実現しました。サファイア基板上で見いだした成長条件を、追加の最適化なしにβ-Ga₂O₃基板へ直接適用しました。
原子分解能の走査透過電子顕微鏡観察により、結晶粒界や回転ドメイン境界のない、連続した規則正しい原子配列を確認しました。
このブレークスルーによって、スパッタリングの可能性が単結晶半導体のエピタキシャル成長へと広がり、超ワイドバンドギャップ半導体の社会実装に向けた新たな道筋を拓きました。本研究では、最適化データを研究者が実際に使える成長ルールへと変換し、その有効性を実験で検証する解釈可能な自律実験手法も確立しました。

02 AI for Science・AI駆動ラボ
[機械学習駆動型エピタキシー]
エピタキシャル薄膜成長に機械学習を世界で初めて導入
機械学習駆動型エピタキシーを開拓しました。ベイズ最適化により、実験結果を次の成長条件の選択に反映します。
SrRuO₃の分子線エピタキシー(MBE)にベイズ最適化を導入し、機械学習をエピタキシャル薄膜成長に世界で初めて適用しました。わずか24回の成長実験で、残留抵抗比が50を超える高品質薄膜を得ました。
2019年の実装では、Ruフラックス、成長温度、オゾンノズルと基板の距離を順次最適化しました。測定結果と予測の不確かさを次の成長条件に反映することで、実験を体系的に設計する手法を確立しました。
この手法で得られた超高品質薄膜が、磁性体におけるワイル粒子の量子輸送の発見につながりました。さらに、独自のベイズ最適化アルゴリズムを開発することで、実験が失敗する状況でも頑健に最適化を進め、事前平均を適応的に調整して準最適な成長条件にとどまらない探索を可能にしました。これらの成果により、機械学習駆動型の材料合成の可能性を広げています。

[物理知識を組み込んだベイズ最適化]
物理知識で実現する、既存データの範囲を超えた最適化
物理知識により、既存データの範囲外にある成長条件を効率的に探索し、材料に関する新たな知見を得ます。
物理知識を組み込んだベイズ最適化(PIBO)は、統計的な学習と物理知識を統合します。有機金属化学気相成長法(MOCVD)によるInGaAsP成長では、ベガード則とガス流量・組成の関係を取り込み、目標のバンドギャップ波長とInP基板との格子整合を同時に満たす成長条件を探索します。
初期の実験データの範囲外にある目標組成を実現し、2つの目標波長に、それぞれわずか1回と6回の追加成長実験で到達しました。この成果は、光通信を支える光電変換デバイスのより効率的な製造に向けた道筋を示します。さらに、Asが多い成長条件ではGaの取り込みが元の物理モデルの予測より抑えられるという、従来のモデルにない組成の傾向も予測しました。
別のアプローチとして、酸化物薄膜成長の獲得関数の重み付けに化学量論の知識を組み込みました。これらの研究により、物理知識を予測モデルと実験条件の選択に取り込む実践的な方法を確立し、既存データの範囲を超える最適化を実現しています。

主要論文
- Physics-informed Bayesian optimization suitable for extrapolation of materials growth
- Physics-informed acquisition weighting for stoichiometry-constrained Bayesian optimization of oxide thin-film growth
- Bayesian Optimization for Self-Driving Materials Laboratories: From Algorithms to Physics-Informed Workflows
[解釈可能なAI駆動ラボ]
自律最適化から、研究者が活用できる科学的知識を生み出す
ロボティクスによる自動実験と機械学習を組み合わせ、成長条件を自律最適化します。さらに、最適化データから研究者が実践できる成長ルールを導きます。
解釈可能な自律スパッタリング実験プラットフォームにより、β-Ga₂O₃の成長条件を自律最適化しました。ロボティクスによる自動実験、光学測定によるUrbachエネルギーの評価、ベイズ最適化を統合し、4次元のパラメータ空間から高品質な成長条件を発見しました。
自律最適化過程で得られたデータに対するランダムフォレスト解析により、4つの成長パラメータの寄与が主に足し合わせで表せることと、温度・酸素流量の相互作用を明らかにしました。ここから、各パラメータを順番に調整した後、温度と酸素流量を同時に微調整するという、実践可能な成長戦略を導きました。
研究者がこの戦略を実行し、Urbachエネルギーを、当初のベイズ最適化で得られた182 meVから163 meVへと低減しました。この改善により、抽出したルールが材料合成の実践的な指針になることを検証し、人が使える科学的知識を生み出す自律実験手法を確立しました。
