研究
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研究

私たちのグループの目標は、 量子物理学や量子情報処理に関する、革新的かつ先端的な理論研究を行う事です。また同時に、私たちは、それらの理論を量子テクノロジーの創出へ 繋げることも目指しています。主な研究分野について以下で解説します。

量子力学の基礎

量子論基礎は量子情報科学の著しい発展を促すことがあります。逆に、量子情報科学で得られた知見が、量子論の基本的側面の理解を手助けしてくれることもあります。私たちは量子力学特有の奇妙な現象を明らかにすることを目指しています。特に、量子もつれに象徴されるランダム性や非局所性に焦点をあてます。私たちの最近の成果には、以下のようなものがあります:
  • Yusuke Hama, William J. Munro, and Kae Nemoto, Relaxation to Negative Temperatures in Double Domain Systems, Phys. Rev. Lett. 120, 060403 (2018).
  • G. C. Knee, K. Kakuyanagi, M. Yeh, Y. Matsuzaki, H. Toida, H. Yamaguchi, S. Saito, A. J. Leggett and W. J. Munro, A strict experimental test of macroscopic realism in a superconducting flux qubit, Nature Communications 7, 13253 (2016).
  • Masato Koashi, Koji Azuma, Shinya Nakamura, and Nobuyuki Imoto, Does "quantum nonlocality without entanglement" have quantum origin?, arXiv:1303.1269 (2013).

量子インターネット

量子インターネットとは、現在のインターネットの量子版であり、量子力学で許されるネットワークの究極形のことです。既存のネットワークから類推されるように、量子インターネットは、情報処理ノードと通信路で構成されますが、それらは量子コンピュータや量子通信路に象徴される量子技術に基づくことになります。その結果、量子インターネットは、量子多体系のシミュレーションや、地球上の任意のクライアント間での量子通信(量子テレポーテーションや量子暗号など)を可能にします。
私たちのグループは、量子インターネットの潜在能力を明らかにすることに取り組んでいます。とりわけ、私たちが取り組んでいる基本的な問題には、「量子インターネットで初めて可能となる(従来のインターネットでは難しい)応用は何か?」や「量子インターネットのパフォーマンスの限界はどこか?」などが挙げられます。私たちの研究例は、以下のようになっています:
  • Luca Rigovacca, Go Kato, Stefan Baeuml, M. S. Kim, W. J. Munro, and Koji Azuma, Versatile relative entropy bounds for quantum networks, New J. Phys. 20, 013033 (2018).
  • Koji Azuma, Akihiro Mizutani, and Hoi-Kwong Lo, Fundamental rate-loss trade-off for the quantum internet, Nature Commun. 7, 13523 (2016).
  • Koji Azuma, Kiyoshi Tamaki and William J. Munro, All-photonic intercity quantum key distribution, Nature Commun. 6,10171 (2015).
  • Koji Azuma, Kiyoshi Tamaki, and Hoi-Kwong Lo, All photonic quantum repeaters, Nature Commun. 6, 6787 (2015).
  • W. J. Munro, A. M. Stephens, S. J. Devitt, K. A. Harrison and Kae Nemoto, Quantum communication without the necessity of quantum memories, Nature Photonics 6, 777 - 781 (2012).

量子コンピュータと量子シミュレーション

量子力学の原理に基づく技術の開発・発展は、21世紀を支える基盤の中心になると期待されています。事実、これらは、無条件安全が保障される通信や、大きな整数の素因数分解などの、極めて重要なタスクを実現します。加えて、ファインマンが1982年に提唱したように、私たちは量子系を巧みに制御することによって、他の量子系をシミュレートすることが可能になるかもしれません。近い将来には、ノイジーかもしれませんが、中規模の量子技術にアクセスできるようになり、これによって量子多体系シミュレーションの新時代が切り開かれるでしょう。ある程度の数の相互作用する量子ビットに対してさえも、このようなシミュレーションは、従来のコンピュータではできないような難しい計算 となります。特に、超伝導量子ビットアレイは量子シミュレータを実装する上で重要なプラットフォームとなりそうです。このプラットフォームは、その不規則性に抗して、物質の強相関状態あるいはトポロジカル状態をシミュレートするように、マイクロ波領域の光子間の相互作用を利用できます。その応用は、量子計測、イメージング、センシングから量子化学や量子コンピュータまでと広範です。
私たちは、どのようにしてシミュレータやコンピュータなどの量子情報処理デバイスを構築するかについて研究しています。私たちの最近の成果は以下です:
  • Kae Nemoto, M. Trupke, S. J. Devitt, A. M. Stephens, B. Scharfenberger, K. Buczak, T. Nobauer, M. S. Everitt, J., Schmiedmayer, and W. J. Munro, Photonic Architecture for Scalable Quantum Information Processing in Diamond, Phys. Rev. X 4, 031022 (2014).
  • S. J. Devitt, A. M. Stephens, W.J Munro and Kae Nemoto, Requirements for fault-tolerant factoring on an atom-optics quantum computer, Nature Communications 4, 2524 (2013).
  • Koji Azuma, Hitoshi Takeda, Masato Koashi, and Nobuyuki Imoto, Quantum repeaters and computation by a single module: Remote nondestructive parity measurement, Phys. Rev. A 85, 062309 (2012).

ハイブリッド量子系

現状では、量子計算や量子通信、あるいは量子センシングなどの量子情報処理に必要とされる特性を、「単独で」全て備える物理系は見つかっていないとされます。例えば、複数量子ビットに対する演算能力に長けた物理系は、コヒーレンス時間が短い傾向にありますし、コヒーレンス時間が長い物理系は逆に、複数量子ビットに対する演算性能に制限をもつ傾向があります。しかし、各々のクラスの量子系をハイブリッド化すれば、各々の系のベストな性質を利用することが可能になります。例えば、共振器中の窒素—空孔複合体中心(NV中心)は、コヒーレンス時間の長い核スピンと、光と結合する電子スピンを持ち、2量子ビット演算を自然に施すことができます。このようなハイブリッドアプローチは、離れたノードのネットワーク化による分散型情報処理を、自然に達成可能なものとします。超伝導回路と電子スピンの集団系も、そのようなハイブリッド系の一例になっています。ここでは、超伝導量子ビットが情報操作を容易に行う一方で、長い保存時間を持つスピン集団が量子メモリとして機能します。
私たちのグループは、このようなハイブリッド系の様々な側面、例えば、それらをどのように実現し、モデル化し、利用するかについて理論的に探求しています。最近の成果のいくつかを以下に挙げます。
  • Andreas Angerer,Stefan Putz, Dmitry O. Krimer, Thomas Astner, Matthias Zens, Ralph Glattauer, Kirill Streltsov, William J. Munro, Kae Nemoto, Stefan Rotter, Jorg Schmiedmayer and Johannes Majer, Ultralong relaxation times in bistable hybrid quantum systems, Sci. Adv. 3, e1701626 (2017)
  • Stefan Putz, Andreas Angerer, Dmitry O. Krimer, Ralph Glattauer, William J. Munro, Stefan Rotter, Jorg Schmiedmayer and Johannes Majer, Spectral hole burning and its application in microwave photonics, Nature Photonics 11, 3639 (2016)
  • X. Zhu, Y. Matsuzaki, R. Amsuss, K Kakuyanagi, T. Shimo-Oka, N. Mizuochi, Kae Nemoto, K. Semba, W. J. Munro and S. Saito, Observation of dark states in a superconductor diamond quantum hybrid system, Nature Commun 5, 3424 (2014).