量子ホール効果領域におけるグラフェンp-n接合のショットノイズ測定

熊田倫雄1 Francois D. Parmentier3 日比野浩樹2 D. Christian Glattli3 Preden Roulleau3
1量子電子物性研究部 2機能物質科学研究部 3CEA Saclay

 グラフェンに垂直磁場を加えることにより現れる量子ホール状態では、電流は試料端に沿って流れる。この電流チャンネルはエッジチャンネルと呼ばれ、その伝搬方向は電荷キャリアが電子か正孔かで逆になる。グラフェンではp領域とn領域の間に空乏層がない特殊なp-n接合が形成されるが、そこでは電子と正孔のエッジチャンネルの混合が起こる[図1(a)]。本研究では、ショット雑音測定により、この混合のメカニズムを調べ、グラフェンp-n接合が電子のビームスプリッタとして動作することを示した[1]。
 SiC上に成長されたグラフェンを用い、4 Kで実験を行った。p-n接合はグラフェンの半分を覆った表面ゲートに電圧を印加することによって形成される。バイアスを加えた電子と正孔のエッジチャンネルをp-n接合中で混合させ、さらにp-n接合の出口で分岐させることによって発生するショット雑音を測定する。バイアスを加えたチャンネルの混合によりp-n接合中のエネルギー分布は非平衡となるが、ショット雑音の大きさはこのエネルギー分布を反映する。今回の実験で、ショット雑音の大きさがp-n接合を長くしていくに従い小さくなっていく様子が観測された[図1(b)]が、これはエネルギー分布が熱平衡状態へと徐々に緩和していることを示している。p-n接合の長さが緩和長(16 µm)より十分短いとき、p-n接合に入射された電荷キャリアはエネルギーを失うことなく、その出口で電子または正孔のエッジチャンネルにランダムに分配されることになる。その結果、グラフェンp-n接合は電荷のビームスプリッタとして動作すると考えられ、それを複数組み合わせることにより電子の量子光学研究が可能になると期待される。

図1 (a)グラフェンp-n接合におけるエッジチャンネルの混合と分岐。 (b) p-n接合の長さが異なる試料で測定したショット雑音のバイアス依存性。