NTT物性科学基礎研究所

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2008年09月01日

超伝導干渉素子で100兆分の1メートルの振動を検出

~巨視的な物体における量子現象の観測に向けて~

NTT物性科学基礎研究所は、超伝導量子干渉素子(SQUID)の一部をマイクロマシン構造(板バネ)に加工し、約10 fm(フェムトメートル:フェムトは1000兆分の1)という微小な振動を検出することに成功しました。これまで困難であった巨視的な物体における量子現象の観測を可能にする有力な新手法を示したものです。

すべての物質の構成要素である原子や電子のふるまいは、ミクロの世界の基本法則である量子力学によって支配されていることが理論上知られています。現実の 世界に存在する巨視的な物体が量子力学によってどのように支配されるかを検証するためには、測定する対象物への影響が小さく、巨視的な物体の極めて微小な 動きを検出できる技術が不可欠です。NTT物性科学基礎研究所では、独自の結晶成長技術を基に、図1に示す新しい素子構造を作製しました。板バネが振動す る時に発生するSQUIDの抵抗値の変化から、本素子が約10 fmの極めて微小な板バネの振動を検出できることを示しました(図2)。

本成果はオランダのデルフト工科大学と連携して得られたもので、英国の科学誌「ネイチャー・フィジックス」誌電子版2008年8月31日号に掲載される予 定です。本研究の一部は独立行政法人日本学術振興会(東京都千代田区、理事長:小野元之)科学研究費補助金の援助を受けて行われました。

ニュースリリース
ナノ加工研究グループ


図1.板バネを組み込んだ超伝導干渉素子の構造

 

はじめに長方形のループ(図1点線囲い、超伝導回路)を有する超伝導量子干渉素子(SQUID)を作製します。続いて、基板のみを溶解させる薬品を用いてSQUID回路の一部の下地を除去し、宙に浮いた微小な板バネに加工しました。本素子構造の作製には、NTT物性科学基礎研究所が持つ独自の結晶成長技術が必要不可欠でした。本素子の板バネ部の大きさは、長さ50 μm、幅4 μm、厚さ0.5 μmです。

図2.100兆分の1メートルの振動を検出する原理

図2.100兆分の1メートルの振動を検出する原理

 高感度の磁気検出素子として知られるSQUIDは、超伝導回路が囲む面を貫く磁場の総量(磁束数)を検出します。斜め方向から磁場を加えた状態で板バネが振動すれば、超伝導回路を貫く磁束数が周期的に変化しますから(図2a)、SQUIDに流れる電流が変化します。今回の実験では、1ケルビン以下の極低温において残存する板バネの熱振動を、SQUIDにより検出しました(図2b)。実験結果から求めた本素子の感度は、板バネの振幅に換算して10 fm(原子の大きさの10000分の1、原子核の大きさ程度)に相当することがわかりました。