量子メモリーの原理実験に成功
~ ダイヤモンドと超伝導量子ビットを直接組み合わせた ハイブリッド系の量子状態制御に世界で初めて成功 ~
NTT物性科学基礎研究所は、量子コンピュータの演算素子の有力候補である超伝導量子ビットと、天然原子の量子ビットとして研究が進められているダイヤモンドを組み合わせることにより、制御が簡易で量子状態の保持時間の長いことを特徴とするハイブリッド量子システムの実現に世界で初めて成功しました。
これまで量子ビット候補として、人工原子の一種である超伝導量子ビットや、原子や電子スピンといった天然原子の量子ビットの研究が進められてきましたが、前者は高速な量子演算が可能なものの量子状態を保持できる時間が短いという問題があり、後者は量子状態を保持できる時間は長いものの、情報の書き込みや取り出しが難しいという欠点がありました。今回開発した手法は、これらの特徴を互いに補完させ、互いの長所を生かした制御が簡易で長寿命な量子系を構築する技術です。
本研究成果では、超伝導量子ビットとダイヤモンド結晶中のスピン集団の間で、エネルギー量子1個を交換する量子もつれ振動を制御可能であることを、世界で初めて示しています。これは、高速な量子演算が可能な超伝導量子ビットの重ね合わせ状態を、量子性が長時間保てるダイヤモンド結晶へ保存した後に再び読み出せることを意味しており、任意の量子状態を保存可能な「量子メモリー」の実現にダイヤモンドが極めて有望な候補であることを実証するものです。今後、量子メモリーは、量子コンピュータにおける演算を可能にする「量子プロセッサ」を実現するための重要な要素技術として期待されます。
本研究成果は、大阪大学と国立情報学研究所と連携して得られたもので、英国科学誌 Nature(ネイチャー)に10月13日(英国時間)号に掲載されました。また本研究の一部は、科学研究費補助金基盤研究(A)「超伝導人工原子を用いた量子メモリーの研究」、文科省新学術研究領域 量子サイバネティクス「単一NV中心における多量子ビット化へ向けた研究」、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「ワイドギャップ半導体中の単一常磁性発光中心による量子情報素子」、内閣府最先端研究開発支援プログラムFIRST「量子情報処理プロジェクト」の支援を受けて行われました。
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http://www.nature.com/nature/journal/v478/n7368/full/478195a.html
超伝導量子ビットとダイヤモンド結晶中のスピン集団での量子もつれ振動 :[アニメーションを表示]