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2012年02月27日

世界初、光RAMチップの実現

~超低消費電力かつ高速処理が可能なネットワーク処理の実現へ前進~

 NTT物性科学基礎研究所とNTTフォトニクス研究所は、光を極小領域に強く閉じ込めることが可能なフォトニック結晶と呼ばれる人工構造を用いて、光メモリの消費電力を従来比300分の1以下に低減し、集積チップ化した光ランダムアクセスメモリ(以下 光RAMチップ)の動作を世界で初めて実現しました。これにより、光データを電気データに変換することなく蓄積・転送することが可能となり、将来的にルータなどのIT機器の大幅な高速化、低消費電力化が期待されます。

 本成果では、InP半導体薄膜に形成したフォトニック結晶中にInGaAsPを局所的に埋め込み光ナノ共振器として,超小型の光メモリを作製しました。このような構造では、(1)光とキャリアの強い閉じ込めにより光非線形効果が増強されるため、低消費パワーのメモリ動作が可能であり,(2)発生した熱が速やかにInP側へ散逸するため、これまで問題であったメモリ動作の安定化が可能となりました。その結果、10秒以上のメモリ時間に加え、従来研究されてきた光メモリの最低消費電力の1/300の値である、30ナノワットという圧倒的に低い消費電力を達成しました。(図1, 2)
 また、上記の光メモリを同一半導体基板上に4ビット集積した光RAMチップを作製し、40Gb/sの高速光データ信号に対するランダムアクセスメモリ動作を確認しました。このような集積化された多ビット光RAM動作は世界で初めての実証です。(図3)

 本成果は、2012年2月26日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン速報版で公開されます。なお本成果の一部は、独立行政法人情報通信研究機構(本部:東京都小金井市、理事長:宮原 秀夫)の委託研究「全光パケットルータ実現のための光RAMサブシステムの研究開発」によるものです。

ニュースリリース
フォトニックナノ構造研究グループ

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図1.フォトニック結晶共振器による光メモリ素子
素子の構成図。微小InGaAsP層がInPフォトニック結晶導波路中に埋め込まれており、光とキャリアの両方を閉じ込めるナノ共振器となります。(b)入射する光の波長を変化させたときの光双安定特性。光入力強度の増加・減少において異なる二つの出力状態が現れる双安定現象が観測されており、光メモリ状態の保持に利用できます。(c)光メモリ素子の比較図。本成果の埋込み構造をもつフォトニック結晶共振器により、従来の光メモリに比べてサイズと動作エネルギーが圧倒的に小さくなり、大規模集積化に適しています。

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図2 光データの繰り返し書込み&読出し動作
書込み光パルスが入射されると、光双安定状態の遷移によりバイアス光出力が増加し、消去パルスが入力されるまでの間その状態が保持されます (書込み、保持、消去動作)。データが保持されている間に読出し光パルスを入射すると、書き込まれた光データが再現され(読出し動作)、一連の光RAM動作が実証されました。この図でのデータ保持時間は1マイクロ秒ですが、実験では10秒以上の時間も保持可能であることを確認しました。

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図3.集積された光RAMチップによる4ビットメモリ動作
"1010"および"1101"の4ビット高速データ光(40Gbit/s)を光シリアル-パラレル変換器により並列化し、各ナノ共振器でデータ保持します。データ書込みの500ナノ秒後に読出し光パルスを入射させると、書き込まれた共振器のみから光パルスが出力されています。これは、データ光が500ナノ秒保持された後に出力されたことを意味しています。