逆近接効果を考慮したアンドレーフ反射分光によるp-In0.96Mn0.04Asのスピン偏極度評価

 超伝導体/強磁性体(S-F)接合は、超伝導と強磁性体中のスピン偏極との競合により新しい量子現象が期待されるため、基礎物性、応用の両面から大いに興味を持たれている。例えば、スピン偏極を考慮したAndreev反射分光を利用して、強磁性体中のスピン偏極度を実験的に見積もる実験が行われている[1]。しかしながら、S-F接合を正確に評価するためには、強磁性体中の交換場が超伝導体中に染み出すことで超伝導体中のペアポテンシャルが弱められる効果、所謂「逆近接効果」の存在も考慮しなければならない。我々は、従来考慮されていなかった逆近接効果がS-F界面でのスピン依存輸送特性やスピン偏極度評価にどのような影響を及ぼすかを検討している。

 今回、強磁性半導体であるp-In0.96Mn0.04Asを用いたS-F接合(図1参照)を作製し、その輸送特性を評価した。用いたp-In0.96Mn0.04Asは、~ 10 K以下で顕著な異常Hall効果が観測され、強磁性に転移した。図2に各温度でのNb/p-In0.96Mn0.04As接合の微分コンダクタンスのバイアス電圧依存性(dI/dV-V)を示す。Nb電極のTC (~ 8.2 K)以下で、Nbの超伝導ギャップ電圧以下に相当する領域に微分コンダクタンスの減少が観測された。これは、p-In0.96Mn0.04As中のスピン偏極キャリアによってAndreev反射が抑制されたことに起因している。我々は、Andreev反射に関するBlonder-Tinkham-Klapwijk理論[2]にスピン偏極と逆近接効果の影響を取り入れたモデルを提案し、実験結果と比較することにより、p-In0.96Mn0.04Asのスピン偏極度Pの評価を行った。実験と計算結果の比較から、0.5 Kp-In0.96Mn0.04AsP値は、0.725と見積もられ(図3参照)、温度とともに徐々に減少していくことが分かった。

     本研究の一部は、科研費22103002の助成を受けたものである。

[1] R. J. Soulen Jr. et al., Science 282(1998) 85.

[2] G. E. Blonder et al., Phys. Rev. B 25(1982) 4515.

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