NTT物性科学基礎研究所

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2009年05月05日

受容体の時間的な形状変化を観察することに成功

~ ATP受容体の構造変化メカニズムを解明 ~

NTT物性科学基礎研究所は、神経などの細胞に存在し、細胞間の情報伝達に重要な役割を果たすタンパク質である「受容体イオンチャネル(以下、受容体と略す)」の形状や形の時間的変化を、生体機能を維持したまま、原子間力顕微鏡(AFM)を用い、1分子単位で、ナノメートル(ナノは10億分の1)のスケールで直接観察することに成功しました。

脳では神経細胞がネットワークを作っており、情報処理や情報伝達を行っています。その中心的な役割をはたす分子が受容体です。受容体は、化学物質が結合することにより形状が変化し細胞内に情報を伝えると考えられていますが、どのような形状の変化が情報を伝達する時に起こっているかは正確には分かっていません。NTT物性科学研究所が持つ高度なナノテクノロジーと九州大学の研究グループが持つ最先端のバイオテクノロジーを融合することによって、今回アデノシン三リン酸(ATP)が結合することによって機能する受容体(ATP受容体)の形状や形状の時間変化を直接的に観察し、ATP受容体の新しい構造変化メカニズムを解明しました。

本手法は、ATP受容体に限らず他のさまざまな受容体を対象に用いることができ、広い範囲での生理機能の解明や、生体分子のメカニズムを組み込んだ電子素子の開発などに寄与できるものと期待されます。

本成果は九州大学大学院薬学研究院薬理学講座井上和秀教授研究グループと連携して得られたもので、2009年5月5日(太平洋標準時)に米国科学誌プロスバイオロジーオンラインジャーナルに掲載されます。また本研究の一部は、JST戦略的国際科学技術協力推進事業での日英研究交流課題「単一受容体タンパク質の動的構造変化と機能の相関」および、財団法人ヒューマンサイエンス振興財団厚生科学研究費補助金の助成を受けて行われました。

ニュースリリース
分子生体機能研究グループ

図1:ATP受容体の構造(A)と活性化による変化のメカニズム(B)
図1:ATP受容体の構造(A)と活性化による変化のメカニズム(B)

(A) ATP受容体は細胞膜に存在し、3つの部分構造が集合することで一つのATP受容体を形成しています。部分構造はそれぞれ細胞の外側(水色の平たい円盤)・細胞膜中(2つの青色の筒)・細胞の内側(2本のひも)に存在する領域を持ちます。(B)細胞外側の領域に情報伝達物質であるATP(アデノシン三リン酸)が結合すると、ATP受容体の3つの部分構造の中心部分に穴が開くように構造変化を起こします。これによってイオンなどが通過できるようになり、細胞内に情報を伝達します。

図2:ATP受容体の構造変化のAFM観察像
図2:ATP受容体の構造変化のAFM観察像

ATP添加時(0.0秒)は、ATP受容体は1つの丸い形状に見えます(図1(B)、左の構造)。ATP添加0.5秒後には、3つの部分構造が別れた構造(図1(B)、右の構造)に変化しています。ATPによる刺激が継続すると、カルシウムイオンがない場合にはより大きな分子が透過する穴が形成されることもわかりました(4~5秒)。