NTT物性科学基礎研究所

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2009年07月27日

多機能な二量子ビット演算素子の開発に成功

~ 「制御反転演算」「交換演算」を1つの素子で実現 ~

NTT物性科学基礎研究所は、半導体の微細加工によって「電荷量子ビット」を集積化し、複数種の二量子ビット演算が可能な「多機能量子演算素子」の開発に成功しました。これは、量子情報処理に必要な「制御反転演算」や、量子ビットの情報を交換する「交換演算」などの複数の機能を1つの素子で実現できることを示した成果であり、量子コンピュータなどの量子情報処理技術への応用が期待されます。

半導体電荷量子ビットは電子を閉じ込めることのできる大きさ100 nm程度の微小な2つの箱(量子箱)からなり、電子が左右どちらの量子箱にいるかによって「0」、「1」を表し、さらにそれらの任意の重ね合わせを作り出すことができます。本研究で作製した素子は図1に示すように、2つの電荷量子ビットを集積化したものです。この素子を用いて以下の2種類のコヒーレント振動を観測しました。

条件付きコヒーレント振動: 第1量子ビットに高速電圧パルス信号を印加したとき、第2量子ビットの値が「1」のときだけ第1量子ビットの情報が「0」と「1」の間を周期的に変化する振動です(図2A)。観測した振動の半周期分の電圧パルスを印加することで「制御反転演算」を実現することができます。

相関コヒーレント振動: ゲート電圧条件を調整して第1量子ビットに高速電圧パルス信号を印加すると、第1量子ビットの情報が「0」から「1」に変化するのと同期して第2量子ビットの情報が「1」から「0」に変化する振動が観察されました(図2B)。2つの量子ビットの値が相関を伴って振動することから、相関コヒーレント振動と呼ぶことができます。この条件では、振動の半周期分の電圧パルスを与えることによって第1量子ビットと第2量子ビットの情報を交換する「交換演算」を実現できます。

いずれの場合も周期的な振動を示すことは量子干渉性(コヒーレンス)が存在することを意味し、この素子が量子情報処理に利用できることを示しています。「制御反転演算」と「交換演算」が1つの素子でそれぞれ1ステップで実行できることで、より効率的な量子情報処理が可能となります。今後は半導体ナノデバイスの優れた制御性・集積性を利用して本成果を発展させ、量子コンピュータの実現を目指します。

本成果は国立大学法人東京工業大学と共同で得られたもので、米国科学誌「Physical Review Letters」の2009年7月28日(日本時間29日)発行の電子版に掲載される予定です。また本研究の一部は、総務相戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)「半導体ナノ構造による量子情報インターフェースの研究」、日本学術振興会科学研究費補助金「表面弾性波による半導体量子構造の電子状態の観測と制御」、東京工業大学グローバルCOEプログラム「ナノサイエンスを拓く量子物理学拠点」の助成を受けて行われました。

ニュースリリース
量子固体物性研究グループ

図1:「多機能量子演算素子」の電子顕微鏡写真
図1:「多機能量子演算素子」の電子顕微鏡写真

半導体表面(図の青色部)上に作製された微細なゲート電極(図の金色部)に電圧を印加することにより、4つの量子箱(図の白い丸)を形成することができます。上側の2つの量子箱は第1量子ビット、下の2つの量子箱は第2量子ビットとして機能し、右上の電極(白い領域)に矩形電圧パルスを印加することにより、二量子ビット演算を実現しました。

図2:コヒーレント振動の測定結果
図2:コヒーレント振動の測定結果

第1量子ビットを流れる電流を観測すると、電圧パルスの時間に依存したコヒーレント振動が観測されます。条件付きコヒーレント振動(A)は、第2量子ビットの電子が右側にあるときにのみ第1量子ビットの電子が振動するもので、半周期分のパルスによって「制御反転演算」を実現できます。相関コヒーレント振動(B)は、両方の量子ビットの電子が相関をもって振動するもので、半周期分のパルスで「交換演算」を実現できます。