NTT物性科学基礎研究所

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2013年02月12日

着衣だけで心拍・心電図の常時モニタリングを
可能にする素材を作製

~繊維に導電性高分子をコーティングすることで素肌にやさしい快適さを実現~

 NTT物性科学基礎研究所は、シルクや合成繊維の表面に導電性高分子のひとつであるPEDOT-PSS※1をコーティングすることで素肌に優しい導電性複合素材を作製し、本素材を用いたシャツにより心拍や心電図の長時間計測に成功しました。

 本成果は、着衣だけで心拍・心電図の常時モニタリングが可能となることを示しており、基礎研究や将来の医療分野での応用だけでなく、スポーツ・健康増進等の様々なシーンでの活用が期待されます。

ニュースリリース
分子生体機能研究グループ

近年の高齢化社会において、異常の早期発見・早期治療による心臓発作等の突然死リスクを軽減する為、心拍や心電図の常時モニタリング実現への関心が高まっています。また、不適切な運動による過剰な負担やストレスによる体調悪化等を防ぐため、心拍・心電図のモニタリングを通じた体や心の状態を把握することは有効と考えられています。しかし、従来の心電図計測で用いられる医療用電極は、装着感が悪く日常生活における連続使用に不向きであり、また近年スポーツ分野で用いられている銀をコーティングした導電性繊維では、ノイズが大きく医療用途としての心電図計測は困難であるといった課題がありました。

 導電性高分子PEDOT-PSSは、親水性で生体適合性にも優れることから生体電極への適用が期待されていましたが、PEDOT-PSSを単体で用いた場合には、湿潤な環境ではもろく、耐水性や加工性に課題があり、その用途は制限されていました。NTT物性科学基礎研究所では、生体電極材料としてのPEDOT-PSSの可能性に着目し、2004年からPEDOT-PSSを金属製の多点電極※2の表面修飾に用い、細胞培養実験や動物を使った生体内埋め込み実験において、高い生体適合性や良好な電気特性を確認してきました。

 今回、シルクの表面をPEDOT-PSSでコーティングし固定することで、PEDOT-PSSの持つ導電性・柔軟性・生体適合性を損なうことなく、強度に優れ、耐水性・加工性の課題を解決した素材を作製しました。(図1)また、シルク以外の合成繊維や布にも適用可能である為、人が身に着けるだけで心拍や心電図といった生体信号の計測を可能とするウエアラブル電極※3を構築しました。(図2)柔軟で通気性のある布の特徴を生かし肌触りが良い為、装着者に負担をかけず長期間の計測・モニタリングが可能です。

 このウエアラブル電極を用いて、健常者10名を対象に安全性確認試験を実施した結果、接触性皮膚炎(かぶれ)などが発生することなく24時間以上の連続使用に対して安定な心拍計測・心電図計測を確認しました。

 今後は、100人規模を対象とした装着試験にて安全性や有効性の更なる検証を行います。また、大学の医学部等と連携し患者様の負担が少ない心電図の長期測定およびモニタリング、基礎研究や在宅医療・遠隔医療等の医療分野への応用を検討する予定です。

 

fig_1.png
図1:シルク表面を均一にPEDOT-PSSでコーティングすることで、柔軟性・導電性・ 生体適合性を損なうことなく、十分な引張強度を与え、耐水性・加工性の課題を解決できます。

fig_2.png
図2:PEDOT-PSSをコーティングした布を電極としてシャツに配置することで、着るだけで心拍・心電図の計測ができます。装着者にほとんど負担をかけずに、長期間連続してモニタリングできます。

【用語解説】

※1 導電性高分子のひとつであるPEDOT-PSS
導電性が良好で環境安定性が優れることから液晶ディスプレイや静電気防止コートにも活用される。PEDOT-PSSは1988年Bayer社(独)が開発。現在はHeraeus社(独)よりClevios™-Pとして市販されている。

※2 多点電極(MEA)
神経信号の検出あるいは神経細胞への刺激を行うために使われるパターニングされた微小電極。

※3 ウエアラブル電極
身体に身に着けることができ、生体信号を検出あるいは生体へ電気刺激を与えるための電極。